永遠の穴場で観た、タラブックスの挑戦

日々、意味>新 2018.01.29 水島 七恵

南インドのチェンナイにある小さな出版社、タラブックスの本に出合ったのは、約4年前のこと。インド中央部に住むゴンド族に伝わる、聖なる木の姿が描かれた絵本「夜の木」を、私は吉祥寺のアウトバウンドで初めて手に触れた。そのときの感触は今も忘れていない。ふっくらとした手漉き紙に、シルクスクリーンで1枚ずつ刷られたすべてがハンドメイドというその絵本は、民俗芸術の伝統を出版に結びつけながら、本という物質性の魅力や価値、可能性を素直に体感させられる一冊だった。そう、素直という一言が適切だと思った。時代と逆行するわけでもなく、過剰なテマヒマというわけでもなく、その物語には必要な手仕事が素直に施されているという実感だけがその一冊にはあったから。

この「夜の木」をきっかけに、日本でもその名が多くの人に知られたタラブックスだが、出版社としてのアイデンティティは1994年の設立以来、一貫している。アーティストや本を制作する職人チームが一体となり、絵、テキスト、グラフィックデザイン、造本にこだわりながら、美しい本を作る。そんなタラブックスの出版活動の全体像を、絵本・原画・写真・映像などの約300点の資料とともに展示紹介された展覧会「世界を変える美しい本 インド・タラブックスの挑戦」展が、板橋区立美術館が行われた(2017年11月25日~2018年1月8日 )。

昨年末、かけこみで観に行ったところ展覧会は大盛況。子連れの女性の姿が多く目立っていた。タラブックスの全体が掴めて良かったと思いつつも、何より私の心に強くつき刺さってしまったのは、おそらく館外に常時設置されているであろう「永遠の穴場 板橋区立美術館」。このコピーをどなたがつけたのか気になって仕方がない。永遠の穴場は、師走の冷たい風にも負けず、気高くなびいていた。