ホンマタカシ氏による現代の「富士考」

日々、意味>新 2018.03.11 加藤 孝司

富士山は日本人にとっていつの時代も信仰と尊敬の対象だ。古来、神の宿る山として畏れられ、その雄大な美しい姿は人々のインスピレーションをかきたててきた。

それは美術の世界でも同じで、いつの時代も美の対象になってきた。1200年前にはすでに富士を題材にした歌が詠まれ、古典文学作品にもしばしば登場した。現存する富士の最古の絵は延久元年1069年に描かれた秦致貞の「聖徳太子絵伝」である。

なかでも葛飾北斎の版画作品にはたびたび登場し、代表作「富嶽三十六景」では、さまざまな角度から富士を描いている。現代美術の中でも富士は登場し、海外の人々にとっても富士は日本のひとつの象徴と考えられている。

生活の中の富士という意味では、僕たちは行き先々で富士を見るとついスマホをかざして写真を撮ってしまう。都会に暮らす多くの人にとっては、新幹線の車内から見る富士がもっとも身近なものかもしれない。
北斎の時代ではないが、写真技術が向上し、多くのプロ、アマチュアの写真家たちに富士は無数に撮影されてきた。その数は天文学的なものとなっているだろう。2年ほど前にも現代美術家であるフィオナ・タンが富士をテーマにした作品「アセント」を発表したばかりだ。
だが、富士はその圧倒的な存在ゆえ、生半可な心構えでは、写真に撮っても絵に描いても「絵にならない」。富士五湖に写る逆さ富士を撮影しても、実際に見て感じる感動以上には美しい写真を撮ることは困難である。かように富士のイメージはどこか消費されているともいえなくもない。
さて、今回東神田のギャラリー、タロウナスギャラリーで開催されている写真家ホンマタカシの新作「Fugauku 11/36 -Thirty six views of mount fuji」のテーマは富士であり、北斎の「富嶽三十六景」。ホンマさんは北斎になぞらえて36の富士の撮影を敢行中だという。今回の展示では現在までに制作された11の作品を発表。そのすべてが小さな穴から撮影されたピンホールカメラ、プリミティブなカメラオブスキュラスの手法で撮影されている。新宿の高層ホテルの部屋やさまざまな場所で、8×10のカメラを暗箱に撮影された作品は、モノクロームあるいはカラーのA4サイズのネガをもとにデジタル処理を経由してつくられている。
富士は唯一無二の存在として「不二」といわれることもあるのだという。ホンマさんの富士には、そもそも無数のイメージとして存在する富士、ネガをもとに複製されるものである写真という存在に対して、幾重の意味でも問を投げかけるものとなっている。そして、消費されたはずの富士のイメージに新しい視点を提示している。カメラオブスキュラスで撮影されたそのあやふやで確かなイメージは、まさに現代の富士考というべきものだろう。
Takashi Homma  『Fugauku 11/36 -Thirty six views of mount fuji』
タロウナスギャラリーで4月7日まで開催中。
加藤 孝司
加藤 孝司
加藤孝司/かとう たかし
デザインジャーナリスト。東京は浅草生まれ。デザイン、クラフト、アートなどを横断的に探求、執筆。雑誌やウェブなどへの寄稿をはじめ、2005年よりはじめたweblog『FORM_story of design』では、デザイン、建築、映画や哲学など、独自の視点から幅広く論考中。休日は愛猫ジャスパーと過ごすことを楽しみとしている。

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