トマソン或いは都市伝説

日々、意味>新 2019.09.06 加藤 孝司

僕が影響をうけたもののひとつに超芸術トマソンがある。影響を受けたというか、すでに漠然と自分の中にあってそれに名前をつけてもらった、というものだろうか。
超芸術トマソン(書物は1985年白夜書房刊)とは赤瀬川原平が名付け親となり、街なかに点在する(孤立する?)作者の意図なくして芸術にまで昇華された人間が作った造型物のことをいう。

そのトマソンとは1981年から2年間のみ日本のプロ野球チーム読売巨人軍に在籍していた大リーガートマソン選手のことをいう。今年巨人は6年ぶりのリーグ優勝眼の前だが、トマソンは現役大リーガーとしてなりもの入りでジャイアンツに入団したにも関わらず、肝心のバットに球が当たらず、高額の年俸を貰っていながらベンチを温めていることが多かった伝説のスラッガーである。
赤瀬川原平の著書『超芸術トマソン』によると、トマソン在籍時に赤瀬川が発見した超芸術に名前をつけるとき、まさしくそのトマソンの在りかたがそれら無用な愛おしいものたち実存とぴったりと合致したのだという。
それはまた建築やデザインのポスト・モダンの流れとひそやかに通底していたことを忘れてはならない。

赤瀬川原平のトマソンは野球選手としての役目を果たしていないにも関わらず、シャイアンツから手厚く保護(年俸によって)されていたトマソン選手の在りかたに由来する。それは実在しながら実際の用途を持たず、しかも人間の手によって丁寧に養生されているもののことでもある。
トマソンがトマソンでありうるためには、社会的には無用でありながら、人間によって手厚く加護されていなければならない。
それのアイロニーに満ちた実存は、今にして思えばいまでいう都市伝説のひとつといえるような気がしている。