042019

Special #35

オンデマンドエコカラットのある風景

Text & Photography加藤 孝司

空気をきれいに整えてくれる脱臭効果と、珪藻土の5~6倍の吸湿性といった高い機能性をもつインテリアアイテムであるLIXILが開発した内装タイル「エコカラット」。NITTO CERAが販売するオンデマンドエコカラットは、そのエコカラットのインテリア性とアートとしての存在感を高めた、より自由度のある製品として国内外で注目を集めている。今回オンデマンドエカラットのクリエィティブディレクションを担当した安間広介氏と、マーケティング&プロモーションを担当した平田知明輝氏のお二人に、機能性とインテリア性をもつ画期的な製品について語ってもらった。

好きなイメージをアートのように部屋に飾る

オンデマンドエコカラットについて教えてください。

平田

オンデマンドエコカラットはLIXILの子会社であるNITTO CERAが販売する商品になります。
LIXILのエコカラットから進化させたものですがエコカラット自体は日本の伝統工法である「土壁」をヒントとし、その土壁にLIXILが長年培ってきた技術を融合してつくった内装向け機能建材です。
従来はカタログの中から色柄を選ぶようになっていますが、オンデマンドエコカラットでは写真やイラストなどのユーザーの好きなイメージから好きなサイズでタイルをつくることが出来るように進化させました。マグネットでの貼り方自体もオンデマンドエコカラットのオリジナルになります。

通常の焼物タイル同様、焼物の一種ということになりますでしょうか。

安間

はい。エコカラットは「高精細加飾」という焼物技術である釉薬を用いて色柄を表現しています。焼物タイル同様、最後に焼き付けますので色褪せることもありません。

どのような経緯で生まれたのでしょうか?

安間

この高精細加飾技術は石目や木目といったタイルらしい表現はもちろん、技術的には写真を含め様々な色柄を表現可能です。
エンドユーザーが欲しいものをオーダーメイド的に造れないかという構想自体は実は以前からありましたが、オーダーメイドとなるとユーザーに付き添う営業コストが必要となります。また「焼き物=生き物」と言われる由縁があるのですが焼き物の色柄は焼成後に変化するのでその色柄をユーザーと調整するオペレーターコストを含めると技術的にはできるのに、その技術価値をユーザーに提供できないという課題がありました。
これらのオペレーション課題の中でWEBを使ってユーザー自身でシミュレーションを完結できるようになればユーザーの欲しい商品を提供できるのではないかというのが背景にあります。また技術背景に加え、デザインコンセプトとしては今後求められるであろう個人を表現する「好きを飾る」といったアート性にフィーチャーし製品や世界観をデザインしました。

安間氏宅の玄関に設置されているオンデマンドエコカラット。今回はその安間氏宅で話を伺った。

DIYできる施工でタイルをポスターのように気軽に貼ったり、ウェブでシミュレーションできたり、好きな写真やイラストを印刷できる新しいアイデアに驚きました。デザインに関するオペレーションの部分をもう少し詳しく教えていただけますか?

安間

オンデマンドエコカラットのウェブサイトがあるのですが、
サイズや柄などはサイト内のフォーマットでシミュレーションしながらオーダーをしていただくことができます。
画像に関してはご自身で撮影した写真はもちろん、数千万点もの画像の中からお好きなものをお選びいただき、タイルサイズを選択いただくと金額も表示されるようになっています。
あと焼成後の色味もシミュレーション可能なのでお好きなイメージから安心してオリジナルデザインのオンデマンドエコカラットをつくっていただくことができます。

画像のトリミングも出来ますか?

平田

はい。ご自身の好みで、例えば馬の顔の位置を画面の中央からずらしたり、拡大したり縮小することが出来ます。
それと設営する位置によって、縦長や横に長くするなど、貼る空間や壁によってレイアウトしていただくこともできます。
例えば滝だったら、階段の壁に縦長に設置したらカッコいいですよね。

ウェブサイトも体験をイメージさせてくれる直感的に操作ができる楽しいつく
り。モバイルを使い、片手でアートをつくるような体験をすることもできる。
タイルの枚数はウェブサイトでシミュレーションすることができ、サイズに合わせて価格も表示される。


自分の好きを見つける

DIYが定着しつつあることもそうですが、まさに最近は自分なりにカスタマイズする文化が広がりつつありますよね。
個人だけでなく、企業の製品にもそんな多様性を取り入れた開発が着目されています。
そういった意味ではまずアートありきではなく、オンデマンドエコカラットはDIYや機能、インテリアという様々な切り口がアートへの入口として用意さている点が入り方として親しみやすいのかなと思いました。

平田

情報が多く得れるようになってきたのでみなさんの好きなものが多様化してきてますよね。
空間に関してもそのような流れが来てて自分なりにカスタマイズしたり自己表現する生活というものが増えてきたように感じます。
そういった中で自分の好きなモノを飾る/アートを飾るというのは今後必然的に求められる流れなのかなと思ってます。課題もありますが。

安間

そうですね。好きを表現したいニーズは来てるんだとおもうんでうすけど、まだ日本では直接アートを生活に取り入れるのにはまだハードルあったりするのかなとは感じています。価格もありますしね。
仮に1㎡くらいの絵や写真などアート作品ってざらに10万円を超えてくるものが多くあります。いざそれを購入しようとする当然家族会議になっちゃう方は多いとおもうんです(笑)。
一方オンデマンドエコカラットはタイルの割線が入ってたりするので完璧なアート作品ではありませんがそこに機能が付随されます。
なおかつ1㎡くらいのサイズであれば4万円程度になるので家族を説得しやすくなるかなと。
オンデマンドエコカラットはある種、アートと空気清浄機がくっついたものと説明する事もあるんですが臭いの気になる玄関やトイレにアートを飾りたいと思っても、スペースや美観、価格も総合的に考えると、バラバラで購入を検討するよりもオンデマンドエコカラットに合理性が出てきます。

平田

そうそう。お金に余裕のある方や本当にアートが好きな人はアートを「作品」として購入することを好むとはおもうんですけど、
僕らのような世代やこれからインテリアに個性をだしたいと思ってる層には自分に対する言い訳というか、理由付けがあると入り易い。
そういう意味で機能がアートに対する心理的ハードルを下げる役割はありそうだとは思っています。

ウェブサイトは見ているだけでも楽しいですね。それでもどれにしようか迷ってしまいます。

安間

僕自身が玄関の馬に決めるまでに一月半かかりましたし、お客様からは迷いすぎてはげる!
なんて言われたこともありましたよ。(笑)

平田

おっしゃる通りで、数千万点あるので自由すぎてなかなか選びきれません。そういった方にはウェブサイトに内にあるピックアップの箇所をご覧いただきたいですね。
これはインテリアとして映えるクオリティの高い写真を安間の方にセレクトしてもらいました。
こちらは折を見て今後も拡充もしていく予定です。またユーザーさんからの要望もありまして、最近ウェブサイトに「お気に入り」機能を実装しました。
この機能によって私たちのウェブサイトを見ながら自分の気になるものをスクラップしていくことができるようになりました。
僕らのウェブサイト自体は多少荒削りでもまず思いつくことは実装していって、足らないところはお客様の声を受けながらよりよいものにしていこうという考えでやっています。
今後もお客様に寄り添うかたちでいろいろトライしていきたいと思ってますので何か要望があればぜひ>オンデマンドのWEBあるいは>公式INSTAGRAMなどにお問い合わせください(笑)。

画像は自分で撮影した写真やイラスト以外にも、Getty imagesの数千万点のストックフォトから選ぶことができる。
「お気に入り」機能があるので、時間があるときにサイトを閲覧して気になる画
像をストックしておき、あとでそれだけを見返して絞り込んで行くことが可能だ。


日常の中であらためてアートと向き合うことってありませんが、機能性のあるタイルで壁を飾ることを目指してオンデマンドエコカラットのサイトを見ているうちに、自分の好きを再発見するきっかけになるのが面白いですね。

平田

アートと言っても、自分が写真が好きなのか、絵なのか、あるいはイラストなのか、家族であれがいいこれがいいと選ぶことを通じて、お互いの好みが重なる部分がみえてきたりもすると思います。
ちょっと話とズレるかもですがご家族で図柄を選ばれた方はDIY取付も一種の家族イベントにもなったりすると思います。お父さんの腕の見せ所的な(笑)

安間

そうですね。従来の住宅設備品だとここから選んでという選択肢が一般的ですし、選ぶことすらなくすでに付いちゃってる時もあります。
また施工が絡むので工務店さんがささっと取り付けてくれるので案外あっさりしちゃうんですよね。
一方、オンデマンドエコカラットは選ぶのも大変ですし、DIYもあるのでちょっと手のかかる子です(笑)。
でも自分でも知らなかった自身の思いに気づいたり、どんどん必死になってくるので家への思い入れというか愛着がすごく増すんですよね。
それが既存の住宅設備品にはない面白さだと思っています。

平田

僕も家にエコカラットを導入しているのですが、自分で選んだり、あるいは自分で取り付けたりすること自体がひとつのストーリーになりますよね。

安間

そう。好きなものを選ぶ事あるいは創る事って自身のストーリーをつくることでもあると思います。
僕は花が好きなので図案は花にしようか、肖像にしようかと迷いましたが、設置したい場所が玄関だったのでそこに黒い自転車を置いているのもあって、「乗る」をひねって白馬にしたんです(笑)。
自分の好きや暮らしをみつめるってなかなかない体験でしたね。ウェブサイトにもそんな思いを込めて、施工事例にストーリーを書いてますのでぜひ図柄選びの参考に読んでみてください(笑)

平田

そうですね。そしてこれがまた必死で自分で選んだ柄なのでDIYの時も柄が出来上がってくるとすごくテンション上がるんですよ!
柄がみえてくるとあと一枚、あと一枚って(笑)選ぶ体験やDIYをする過程をある種のアクティビティだと捉えて楽しんで頂けたらと思います。

DIYの話があがりましたが施工方法についても教えて頂けますか??

平田

今回新たにマグネットでのDIY施工を提案させていただいてます。
スチールシートという粘着面のついた下地材をタイルと一緒に提供させていただいてます。
ご自宅の壁に張り付けてタッカーで補強し固定していただきます。タイル自体の裏にはマグネットがついていますので、冷蔵庫にマグネットを貼るようにスチールシートに簡単に貼ることができます。
それともうひとつがアートへの思いという部分で、自分の好みは長い目で見れば変化すると思うんです。そのときに付けたら終わりではなく、DIYだからこそ飽きたり、少し気分を変えたいときに、自分で剥がして、別の絵柄に変えることが簡単に出来るのもメリットが高いと思います。

それは今までになかった画期的なものですし便利ですよね。

平田

ありがとうございます。気の済むまで、何回でも模様替えができますよ(笑)。
玄関であれば季節に合わせてお花の絵柄を変えたり、ご家族であればお子さんの成長に合わせてタイルの絵柄を変えたりすることも出来ます。
ユーザーさん自身で簡単に取り付けができることと、後々取り換えられることの2点を考慮しマグネットという接着方法を考えました。
従来のタイルだとやはり職人さんにお願いしなきゃなんで中々ハードルも高いのですがアートへの接し方同様、少しライトな感じで敷居をさげるように努めました。

取り付けが出来る壁はどのようなものになりますか?

平田

石膏ボードなど普通の建築下地でタッカーが入る壁でしたら設営が可能です。コンクリート壁でしたら、薄いベニヤを壁に固定していただければ設営が可能です。

DIYする道具は別途購入する必要がありますか?

平田

先ほどのタッカーやスチールシート含め水平器なども付属させていただいてます。

安心しました。

平田

タイルですと一度貼ったらかなりの手間をかけないと剥がして変えることは出来ませんからね。
額装をしたアートを気分によって掛けかえるようなイメージでデザインしています。業界的にも初なのではないでしょうか。
また我々としては狭義のDIY=DO ITYOUSELFではなく、デザインするの意味をこめてDESIGN IT YOURSELFをDIYと呼ばせてもらっています。


アートを暮らしの中に飾るというリアリティ

実際にオンデマンドエコカラットを生活に取り入れて、暮らしに変化はありましたか?

安間

友人がよく家に来るのですが、なにこれ!って皆が驚いたり喜んだりしてくれるので少し嬉しくなります。
それと玄関奥の壁に電気温水器があって、そこから湿っぽい変な匂いがしていたのですが、オンデマンドエコカラットを貼ってからその嫌な匂いがなくなりました。でもやはり一番の変化は自分自身が語りたくなるアイテムになったというのは大きいですね。
それは商品開発に絡んでいたからという意味ではなくて、自身で選び抜いて取り付けたという「体験」をしたからだと思います。

平田

それすごくわかります。僕自身も家にあるオンデマンドエコカラットのことを凄くしゃべります(笑)愛着は凄いですね。

家をつくるときに壁の役割は今特に注目されていると思います。アートやお気に入りのものを飾る場所、暮らしのスタイルの変化によってフレキシブルに変化させる余白としてなど、インテリアにおいて壁が注目されていると思うのですが、オンデマンドエコカラットもまさに家における壁へのアプローチだと思うのですが、お二人は壁に対してどのようなお考えをお持ちですか?

安間

壁もそうですが最近だと住まい手の方とともに建築を完成させていくという例が増えていて、その流れは僕も気になっています。
これまでの住宅は賃貸や持ち家であっても、ハウスメーカー或いは建築家がつくったものに住まわされている感があって、ユーザーが介入する部分が少ないことが気になっていました。今回の製品を生活に取り入れていただければ、より自分の「好き」に忠実に暮らしていけるのではないかと思っています。

平田

僕はこれまでヨーロッパや東南アジア等、日本以外の国に住んでいた時期もあるのですが、壁は一種の文化だと思っています。

壁が文化とは?

平田

そもそも各国で壁の扱いが違うんですよね。
例えばマレーシアでは家の壁が色んな色に塗ってあったり、イギリスでは歴史を感じさせる石材が壁に使われていたり。日本が面白いのはどの家の壁も綺麗で、白い。そんな部分からも、画一性や、まじめさといった日本のカルチャーを感じます。
そんな風に壁にもお国柄が表れています。今回のオンデマンドエコカラットでは日本の画一的な文化を変えるものにしたいという裏テーマがあります。

安間

そうですね。生活における日本のカルチャーをより自由に変えたいと思っています。
高度経済成長時代に今でいえばコピー&ペーストのように家が量産されましたが、インテリアの楽しみ方というか向き合い方はさほど大きく変わっていないと感じています。
暮らしとしてのインフラは便利になりましたし、お洒落にはなってきてると思います。ですが先ほどの平田の言葉にもあったように日本人は画一的なんで○○系とか○○テイストというのが流行っちゃうとみんな同じになっちゃうんですよね。良くも悪くも右に倣えなので無難というか、誰の家か見分けがつかなくなる。。。でもネットが一般化してますし海外のステキな事例もみれるようになりました。今後はみんな色んなものを比較して見るようになるとおもうんです。そこに個性というニーズが求められてくるでしょうしオンデマンドエコカラットの存在感がでてくると思ってます。
自分の好きに忠実に、自分の好きなものをもっと壁に飾って生活を楽しんでもらいたい。

もし日本の住空間が豊かでないとしたら、それは日本のインテリアメーカーやインテリアに関わる人たちの責任でもあるかもしれませんよね。

安間

メーカー側なのであまり大それた事は言えませんが(笑)
大量生産や暮らしに関する画一的なルールが必要な時代もあったとは思います。ですが今は飽和してる感がありますよね。
みなさんの楽しみ方が多様化していくなかで、我々自身ももっと変わらなけらばという思いはあります。
そんな背景を考えると今回オンデマンドエコカラットという商品で、商品と同じくらいの力を注いで考えているウェブサイトを通じて、自由なプラットホームを提供できたということは、すごく意義があることだと考えています。

平田

日本の暮らしでは持ち家でさえも壁に穴を開けて自由に好きなものを飾ることも躊躇する面もありますよね。オンデマンドエコカラットで、皆さんが暮らしをより自由に暮らすための後押しとなって、「壁は自由につかっていいんだよ」という雰囲気になってくれると嬉しいです。
人から与えられたもので楽しむのではなく、全体として自分でつくるということに精神面も変わっていければ、オンデマンドエコカラットをつくった冥利に尽きるところがありますね(笑)


今後の展望を教えてください。

安間

今後はアーティストとコラボした製品開発に取り組んでみたいです。
この商品は自分で選ぶ楽しみはあるのですが、最後に買うという部分で決められないという方も多くて。
それが自分の好きな作家さんの作品であったら買うことを後押ししてくれるのではないでしょうか。

平田

ショップさんとのコラボもしてみたいですね。
ショップさんやアーティストさんがどのようにオンデマンドエコカラットを使っていただけるのかそこにも興味があります。

安間

それとこのたびオンデマンドエコカラットがドイツの世界三大デザイン賞であるレッドドット賞を受賞しました。
世界のお墨付きをいただけたことで、タイルを焼く日本の高い技術で、さらに世界のユーザーさんにも喜んでいただけるような製品づくりをしていきますので、今後にも期待していてください。

「レッド・ドット賞」は、ドイツの「iF デザイン賞」、アメリカの「IDEA 賞」と並ぶ世界 3 大デザイン賞として、デザイン界ではもっとも権威ある賞のひとつであり、同賞のプロダクトデザイン賞は、1955 年から続く世界的にも権威あるデザイン賞です。
ノルトライン・ヴェストファーレン・デザインセンターが選定を行い、過去2年以内に製品化されたデザインを対象とし、デザインの革新性、機能性、人間工学、エコロジー、耐久性など9つの基準から審査されます。
これらをクリアした作品にレッド・ドット賞が贈られます。

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