エットーレ・ソットサスの神秘的なオブジェ。

日々、意味>新 2017.09.15 加藤 孝司

エットーレ・ソットサスは日常に使う家具に神秘性を持ち込もうとしていたのではないかと思う。それは現在の生活になじむ、風景になじむ、といった物に求める考え方と真逆のもののように思う。写真にあるどこか不思議なかたちをしたものは、スツールである。以前にも一度紹介したことがあるが、これをデザインをしたのはイタリアを代表するデザイナーである、エットーレ・ソットサス。2017年はソットサス生誕100年というから、現在彼のデザインは世界中で再評価の機運が高まっている。とはいえ、その知名度とは反対に、ソットサスのプロダクトには、大ヒットしたものは少ない。60年代に80年代以降のポータブルなライフスタイルを先取りした、オリベッティの赤いタイプライター「ヴァレンタイン」は今でもデザインプロダクトのレジェンドのひとつだとしても。それは、生前の忌野清志郎がミリオンセラーを出してみたいとテレビ番組のインタヴューで言っていたことと、僕の中ではどこか通じる。

このスツールはそんなソットサスの’60年代につくられた自信作のひとつだ。なぜそう思うかといえば、60〜70年代のソットサスのインテリア写真には、たびたびこのスツールが写り込んでいるからきっとそうなのだろう。ちなみにこのスツールの制作を担当したイタリアの家具メーカー「ポルトロノーヴァ社」からはソットサスの木工家具がいくつも制作されている。

さて、なぜソットサスは日常に神秘性を持ち込もうとしていたのかというかといえば、彼はこれらのオブジェ的な家具を制作することで、日常とはそもそも神秘的なものなのだということを、いおうとしていたのではないか?と思うからだ。ぼくたちの日常は、意識的であろうとなかろうと、予定調和的な考えでできている。これをこうしたらこうなる、というあらかじめ決められた未来をぼくたちはなぞりながら生きているにすぎない。

だが、実のところぼくたちがみないようにしていることだらけが、ぼくらの未来には待っているし、実際には起こりうる。ソットサスの家具は、予定調和的なぼくらの「いま」に、文字通り「カツ」を入れる装置であるのだ。