042018

Special #26-2

Eastern 釣りに行こう。- 中編 - 2月24日・25日 Eastern根室編、guild Nemuroから

Text & Photography : 水島 七恵

いにしえから変わらない自然のある本土最東端・北海道根室市とたくさんの人々が行き交う東の都・東京。

ふたつの東を行ったり来たり。それぞれの場所から育まれていくものの出会いから、
これからの新しい暮らしを探っていくイベントEastern vol.02が、昨年に続いて今年もふたつの東で行われました。

vol.02のテーマは、「釣りに行こう」。一見すると間口が狭いとも捉えられがちなこのテーマを、
誰にでもひらかれた体験へと繋げるためにEastern が大切にした心意気とは?

Easternに携わった人たちの声をすくいとりながら、三編(前編・中編・後編)に渡ってこのイベントに迫りました。

*昨年行われたEastern vol.01のレポートはこちらから。

 

白い生地をキャンバスに、根室の風景を描く

日常に寄り添うバッグブランド、TEMBEAの試み

Eastern vol.02の根室編は2月24日、25日に開催された。昨年に続き、セレクトショップguild Nemuroを会場としながら、東京からは千駄ヶ谷にお店を構えるバッグブランドTEMBEAと、兼ねてから根室にフィールドワークに訪れている写真家の津田直さんのインスタレーション作品を迎えていた。さらにVOSTOK laboによる企画展示や飲食ブース、東京・恵比寿のアートブックショップPOSTによる展示なども行われ、イベント当日はオープンから多くの人で賑わっていた。

昨年に続き、Easternの活動を伝えるためのフライヤーとフリーペーパーを制作。フリーペーパーはvol.02のテーマである「釣りに行こう。」を軸に、魚を釣るという行為の先に生まれる多様で豊かな風景が、様々な視点で綴られている。これらのツールは筆者自身も編集者として携わらせてもらった。イベント会場の他、VOSTOKと関わりのある根室と東京のショップで配布されている。

「中標津空港から根室へ向かうバスの中、移動中に外の景色をずっと眺めていました。道中に建物は殆どなく、雪に覆われた森の風景が続きましたが、景色の変化があまりなくても、飽きることなく見ていられました。それは、雪が積もり緩やかに膨らんだ表面が太陽の光を反射して、きらきらと光る様子があまりに綺麗だったこと。時折、野生動物の足跡を見つけ、そこに動物がいる風景を思い浮かべることで、とても穏やかな気持ちになれたことなどが理由になります」。

 

そう語るのは会場入りしていたTEMBEAのスタッフの白石美久さん。白石さんはEastern vol.02開催に合わせて展開した、TEMBEA × VOSTOKのコラボレーションアイテムのイラストと生地のデザインを手がけている。

今回、TEMBEA × VOSTOKとのコラボレーションバックとしては3型を展開。

種類は、手持ち、肩掛けどちらも使用できる<GAME POUCH>¥11,800、A4サイズも入る<FLAT BAG>¥6,000、その名の通り、バゲッドを入れるためのトートバッグ<BAGUETTE TOTE>¥10,800。*価格は全て税抜き。

「はじめのうちは熊と鮭と釣り人というテーマでバッグデザインを考えようと思っていました。けれど古川さんのインスタグラムやインターネットで情報を集めているうちにワカサギ釣りの風景が強く印象に残ったので、そちらにテーマを変更したんです。凍った湖の上にポコポコ氷の穴が開いていて、そこでワカサギ釣りをする人を描くことでバッグの生地の白さが“雪景色”のように見えたら良いなと思いました。またリサーチの中で、ふわふわの雪の中に頭を潜らせて狩りをしている狐の写真を見つけたんです。その姿の愛らしさは衝撃的でした(笑)。そんな狐のモチーフも、雪景色の中のアクセントとしてピッタリだったので取り入れたんです」。

 

こうしてTEMBEA × VOSTOKバッグは3種類完成し、イベント会場ではTEMBEAの既存の商品とともに展示販売された。

 

「根室は人との関わり合いがとても密なように感じました。助け合いがごく自然に行われていて、その人の優しさが街を作っていて。北国の冬は、気温がマイナスになるほど寒いのに、その寒さを忘れさせてしまうくらいに。東京にいると、一人の時間が欲しいなと感じることもありますが、根室ではそう思う瞬間がなかったです」。

今回の滞在が初根室となった白石さん。2泊3日の滞在はイベントの準備もあり、根室の自然を満足がいくほど見きれなかったようだが、次回こそ、根室の自然の中で体験できることをもっとしたいと話す。

 

「私にとって、日々の生活とはバランスが何より重要だと思っているんです。だからこそ東京という都市で生活することの意味を、自然豊かな山や旅先で、そして根室に出向くことで、見つけられるような気がしているんです。次こそは “釣り”をしてみたいですね。冬時期に根室に行って、まずはワカサギ釣りから始めたいです。そして夏時期は、根室の森に入ってボートに乗って川を下り、朝焼けを待ちながら釣りもいいですね。もちろん、TEMBEA × VOSTOKの釣りバッグを持って。また、私は登山が趣味で、山の頂上に立ち、目を細めて遠くを見つめる瞬間がとても好きなのですが、Easternとは、まさにその感覚と似ています。目を細めて遠く、これから先の生活を見つめ直す。そのようなイベントだと感じました」。

会場となったguild Nemuroの店主、中島孝介さんもまた「釣りに行こう。」をテーマに、自身がヨーロッパで買い付けてきた古い釣り道具も展示販売を行った。

「フライフィッシングの魚を釣る方法でマッチ・ザ・ハッチというのがあります。ターゲットである魚が何を捕食しているかを見極め、それにピッタリ合ったフライで釣ることなのですが、今回は商品をフライに、お客さんを釣り上げる事が出来るかなと思ってましたが、そう簡単ではありませんでした(笑)」(中島さん)。

魚の置物は、1900年代初頭の物で、カナダのイヌイットの人達が使っていたデコイ(囮)。「氷に穴を空けて、この魚を垂らしておくと仲間だと思い寄って来た魚を釣っていたようです」。

魚の左横:ベルギーで買い付けた古いアルミのガットケース(糸を仕舞っておくケース)

アルミの左横:イギリスHardy社の黒いフライボックス。(棚下段)オランダで発掘された古代の釣り針

4年前にフランスで買い付けたアメリカ産のリール。


野生に触れながら、もの作りの楽しさを体験する

釣りをイメージしたおもちゃとお菓子

会場の中心にはロシアの民芸品のからくり人形、ボゴロツコエがずらりと並んでいた。子供たちが手に取りながら夢中になって遊ぶ姿が眩しい。大人も虜にする可愛さで、根室の漁師さんも興味津々な様子。そんなからくり人形を、ロシアのボゴロツコエ村の職人から直接買い付けて来たのは、VOSTOK laboの野﨑敬子さんと中村美也子さんだ。

 

「根室とロシアとの長い関係性もありますし、Easternは大人も子供も楽しめるような要素があってほしい。そんな想いもあって、今回のテーマである“釣り”にかけて、吊り下げて楽しめるボゴロツコエを作っている村を訪ねました。村に向かうまで車での移動もあったんですが、移動中、少し居眠りをしてしまったんです。それでふっと起きたら“えっここは根室!?”と惑うぐらい、現地の風景と根室の風景は近しいものがあってほっとしました」。

モスクワの北東村100kmに位置するボゴロツコエ村は、世界遺産の都市、セルギエフボザードから車で40分ほど行ったところに位置する。15世紀から冬の農閑期に、修道院の木製装飾などと一緒に作り始められたというボゴロツコエは、この村の職人がひとつひとつ手仕事をして作られていて、ロシアの民芸品としてはマトリョーシカが有名だが、ボゴロツコエはそれよりも遥かに古い歴史を持っている。

 

「日本が大好きな職人さんで、私たちの訪問もとても快く対応してくれました。そんな職人さんが作り出すボゴロツコエは熊や兎をモチーフにしたものが多く、重りを揺らしたり、ボタンを押すと、動物たちがのんきな動きで仕事をはじめます。昔から人の成長に寄り添い、愛され続けてきたからくりおもちゃは、その土地のことを教えてくれるような気がします。根室と同じような気候風土から生まれる個性豊かな動物たち。もう少しロシアの文化を掘り下げたいなと思い、できることなら今年もまた現地に行きたいと考えています」。

 

ボゴロツコエのほかにVOSTOK labo では、2種類のショートブレットと紅茶をバック型のボックスに詰め込んだお菓子セット「Hang Bag」(写真左)と「タラサンド」(写真右斜め下)を企画・販売。釣りはフライフィッシングの発祥地でもあるイギリスで文化が成熟してきた側面があることから、「イギリスをイメージしたショートブレットと紅茶のセットにしました。紅茶のパックもハングで。ダジャレみたいですよね(笑)」と、ふたりは話す。

根室が誇る飲食店の協力のもと、スペシャルフードの販売も。戦前からパン屋を営む根室の老舗、「山森製パン」のカステラサンド。根室市内の学校やコンビニでも買える、根室のローカル食として親しまれている。

イベント限定の「タラサンド」。根室の台所「マルシェデキッチン」がセレクトした生タラを洋食屋の「どりあん」がフライにし、帯広産のさくらんぼの天然酵母を使ったパンを「山森製パン」に特別に作っていただいた。

この他、EASTERN の会場什器などでも多くの根室市民の有志をいただいて開催することができた。

野生を身につけるワークショップ

会場には一眼レフのカメラを片手に、目を輝かせながら会場内を撮影する女性たちがいた。プロが持つような高価な一眼レフであったから、どこかのメディアの人で、Easternの撮影に訪れたのか?とも思ったけれど、どこか違った風情を醸し出している。こっそり観察していると、その答えを野﨑さんと中村さんが教えてくれた。

 

「みなさん、去年のEasternで仲良くなったお客様なんですよ。あるときVOSTOK laboのカフェにも数人で来てくださって、“お友達だったんですか?”と尋ねたら“去年のEasternで仲良くなったんです”と。それを聞いたときは本当に嬉しかったです。みなさん自前のカメラで撮影をして、SNSにアップしてくださるんです。アップすること自体も楽しんでいらして、どうやらSNSを通じて生まれるコミュニティもあるようなんです。そうやって繋がっていくことで、根室はもちろん、道東が賑やかになることは素敵なことだと思うんです」。

毛針をアクセサリーにする試みは今回が初めてという古川さん。そんな古川さんが用意した動物の毛や羽は、ヒグマ、シロクマ、鶉(うずら)、鶏、蝦夷鹿、孔雀、鴨など。

その女性たちは会場にて行われたワークショップ、「獣毛や鳥の羽でアクセサリーを作ろう」にも参加していた。ジュエリーデザイナーでもある古川さんが講師となって行われた毛針をアクセサリーにするこのワークショップは、いにしえの人々が実際に身につけていた獣毛や鳥の羽といった野生を、今の時代感覚で取り入れながら、もの作りの楽しさを体験してもらうことを目的としている。

この毛針アクセサリーは、接着剤などを使わず、糸だけで好きな動物の毛を鈎の上に巻き留めて作る。

「動物の毛や羽を使って物を作るということは、羽の性質とか、素材の性質を見極めなくてはいけません。それは言い換えると動物たちの断片とコミュニケーションをしていることに繋がります。例えば昔の人は熊の牙や爪を身につけることによって強さを得ようとしたけれど、もし今、動物の断片を身につけるのであればファッションの要素が強くなる。それも面白いですし、今の時代の感覚で楽しんで作ってもらえたらと思いました」(古川さん)。

2部制で行われたこのワークショップ。一眼レフの女性たちは、古川さんのレクチャーを真剣な眼差しで見つめながら、時折シャッターを切っていた。他に小さな子供達も参加。みんな思い思いの時間を過ごしながら、一生懸命にイヤリングやブローチを作っていた。

 

「作るときのコツは、完成を想像できているかどうかです。例えば自分の好きな羽をたくさん巻くのは楽しいですけど、完成した時のバランスがよくないことも多々あります。だからこそ、完成を想像できることが大切で、でもそれが一番難しいことでもある(笑)。その上で過程をいかに楽しむか、です」。

 

ワークショップを終えて、会場もひと段落の雰囲気に。陽が少しずつ落ちてくると、このイベントのために撮りおろした津田さんのインスタレーションが会場でよく映えていた。

Eastern 釣りに行こう。- 後編 –は5月5日(土)にお届けします。


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Eastern 釣りに行こう。- 後編 –

3月24日・25日 Eastern東京編、恵比寿POSTから

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