042018

Special #26-3

Eastern 釣りに行こう。- 後編 –

3月24日・25日 Eastern東京編、恵比寿POSTから

Text & Photography : 水島 七恵

いにしえから変わらない自然のある本土最東端・北海道根室市とたくさんの人々が行き交う東の都・東京。

ふたつの東を行ったり来たり。それぞれの場所から育まれていくものの出会いから、
これからの新しい暮らしを探っていくイベントEastern vol.02が、昨年に続いて今年もふたつの東で行われました。

vol.02のテーマは、「釣りに行こう」。一見すると間口が狭いとも捉えられがちなこのテーマを、
誰にでもひらかれた体験へと繋げるためにEastern が大切にした心意気とは?

Easternに携わった人たちの声をすくいとりながら、三編(前編・中編・後編)に渡ってこのイベントに迫りました。

*昨年行われたEastern vol.01のレポートはこちらから。

過去・現在・未来を一体のものとして捉えてゆく大きな目

「東端に立つ」 写真家・津田直

Eastern vol.02根室編から1か月。3月24日、25日には東京編が行われた。会場は、恵比寿のアートブックショップPOST 。根室編とほぼ同様の展示販売のほかに、2部制のアクセサリーのワークショップ、そして写真家の津田直さんによるトークイベントが行われた。

 

津田さんは日々、国内外をフィールドワークしながら、ファインダーを通して古代より続く人と自然との関わりを捉え、見えないものを翻訳しながら可視化してきた写真家だ。そんな津田さんが捉えた根室のこと。トークのはじまりは北海道という土地を捉え直すことから始まった。

「人類はもともとそこに備わっていた土地のラインを崩し、再構築しながら都市を作り出してきました。その土地のラインの一つに川の存在がありますが、北海道は、日本列島の中でも最も川を中心に人々の営みが形成されてきたのではないだろうか?そんな風に僕は感じたんです。それは例えるなら日々身体の中を循環する血の流れのように、人々は川を感じながら営みを育んできたのではないかと。僕は1年に一度のペースで北海道へ入っているのですが、その川を、僕のなかでは道だと捉え、その道から土地を見つめるようにしました。すると見えてくることがあったんです。例えばアイヌのコタン(集落)は川と密接で、川のそばにコタンが点在することが多いことに気づきました。きっとアイヌの人たちにとって、川は命を運んでくるものであり、送り出す場所でもあった。つまり内と外をつなぐ、一番大事な回路だったのではないでしょうか。みなさんもぜひ北海道の地図を見るときは、真っ先に土地に流れる川を見て欲しいです。そうすると見えてくるものがあるはずです。そしてそれはきっと、北海道の新しい見かたになると思います」。

日本の基層文化のひとつに、約一万年に渡って狩猟・漁労・採集を中心とした暮らしを実現させていた縄文時代がある。津田さんはこの縄文に焦点を当てながら、撮影を重ねてきた。根室もまた、数多くの遺跡が発掘されている土地。そのため津田さんは、根室から道南の噴火湾地域へ、さらに函館からフェリーで下北半島へ渡り、むつ市から南下し青森市へと巡る縄文フィールドワークを行なっていた。

その過程で出会ったという、函館市縄文文化交流センター館長の阿部さん。阿部さんとは「時間軸の捉え方」について話が膨らんだと、津田さんはトークの中で話し始めた。

 

「僕たちは普段、過去、現在、未来というものがあたかも存在しているかのようにつねに線を引いているところがあると思うんですね。でも阿部さんは僕に、“縄文人は現代人のように、過去・現代・未来と区切り時間を見ていないようなところがあるね”と語ってくれたんです。つまり、縄文の人々が時を捉えるときに、過去・現在・未来を一体のものとして捉えてゆく大きな目があったのではないかと。実際にそれは彼らの生活空間とお墓の近さ、出土している祭祀道具と思われる土面や装飾の施された土製品などからも想像することができるんです。時間の区切りがないかもしれない。そう思えたときはっとしました。例えば生きていること死んでいることにもそんなに大差がないのかもしれない。そう考えていくと、普段の暮らしをする上で恐れるものも変わってくれば、生活の形式も変わってくるかもしれない。そしてそういうことが見える土地が、狩猟採集文化が途切れなかった北海道であり、根室なのではないでしょうか。大型動物の始まりや終わりにも立ち会えるし、根室は生や死はスパンと切れるものではなく、緩やかにやってくるものだと自覚させてくれる長い旅の経由地だと思います。東京という都市が豊かになる上でも、それがよく見える場所が傍にあるということが大事ではないかと思うんです」。

古川さん(右)を聞き手に、トークをする津田さん(左)。左のスライドにはこのトークのために津田さんが撮りおろした根室の風景が投影されている。実はこの撮影中に津田さんは大きなアクシデントに見舞われていた。「よっぽど集中していたのか、ある瞬間に足元の氷が溶けて、そのまま僕は氷点下の水の中にすっぽり入ってしまって、同時にカメラを水没させたんです。大ショックです。カメラは僕の身体の一部でもあるから。でもそのぶん根室は見えたと思います(笑)」。

トーク終了後、津田さんに声をかけた。今後の根室との関わりをどのように持っていこうと考えているのか、知りたかったからだ。

 

「北極圏とのプロジェクトで何か出口を探れないかなと思っています。と言うのも、2012年の初夏に極北の先住民であるサーメ人に出会うため、フィンランドとノルウェーを訪ねたんですが、そのとき見たサーメとの風景と、先日見た根室の風景。それは文明の中では分解してしまったけれど、元々は1本の繋がった線なのではないかと、僕の中で回路が繋がる瞬間がありました。つまり僕の中の地図では、根室は北方文化の中では、一番南に位置していると見てしまったんです。そう見た瞬間に扉が開いてしまったから(笑)、今、それをどう形にしようかと思っているところです」。


根室は根室、東京は東京の意識と角度で

Easternの運営を最も力強くサポートしているのは、根室市役所だ。市役所の中でも直接Easternの担当をしている部署は、総合政策室。以前は企画課と呼ばれていたというこの総合政策室は、シティプロモーション、移住促進など、市役所が担うあらゆる分野を横断しながら街づくり全般を担い、新しいものを生み出す部署という位置付けで認識されている。

 

「古川さんが津田さんに私を紹介する際に、“根室市の方たちと自分たちを繋いでくださる人です”と説明してくれたのはとても嬉しかったです。実際、私自身も外交官じゃないですけど、それを使命と思っているところがあるんです」。

 

そう話すのは、総合政策室総合政策担当主事の井口舞子さん。東京に住んでいた時期もある井口さんは、約3年前に根室にUターンして、市役所に勤務。東京から移住してきたVOSTOKの面々と直接、やりとりをするのはこの井口さんだ。

 

「Easternは、根室市が負担金を出している根室市移住交流促進協議会とVOSTOKの共催事業です。基本的に企画内容については全てVOSTOKにお任せしているんですよ。というのも、根室市の考えを入れてしまうと、予定調和の空気になってしまいかねないからです。それよりも完全に移住者の目線で企画したほうが、きっと新たな根室の魅力がひらかれていくはず、と。もちろん、地元の方たちには伝わりづらいものが生じるときもあります。でもそれを翻訳しながらきちんと橋渡しするのが自分の役割。だからこそ、古川さんに“井口さんは繋ぐ人”と言ってもらったときは嬉しかったんです。その繋ぐということですが、それは私自身、一度根室を離れ、東京に住んだ経験が生かされているようにも思います」。

VOSTOKと根室市役所。互いの立場に敬意を持ちながら、より良い暮らしとは何か。それをこれからも継続的に見つめていく。

 

「これまで一番嬉しかったのは、1回目のEasternに参加した地元の人が自分のSNS上で、“道東に生まれて、今日は人生最良の日だ”といったようなコメントをされていたのを見つけたときです。純粋にこんな声を聞けて、市としてもEasternをやってよかったなあと思いましたし、やっぱりこういう交流というのは、地域にとっても必要不可欠だねと改めて感じたんです。このようなイベントやると、何人集客があったのか、その瞬間にどういう結果が生まれたのかとか、即効性を求めることがよくありますけど、そこだけで成果を求めるのは違うと思っています。日々の活動が点であるなら、その点を増やしながら、ある瞬間に太い線になる。そういう視点を持ちながら、私自身、市役所の立場からこれからも携わっていけたらいいなと思います」。

 

***

根室は根室、東京は東京の意識と角度で、今の時代に必要だと思う感覚を共有しながら、形にしていく。そしてその形をどう見つめるかは、結局、ひとり一人が人生の中で培ってきた生き方、内面的な物語次第だと思う。同時代の大きな共感の前に、まず自分が何をしたいか、どういう暮らしがしたいのか。その見えないものと向き合っていくきっかけが、Easternにはある。
これからも、根室の風を感じながら足元の東京を見つめていきたいと、私自身、改めて感じた。

東京でも大人気のVOSTOK laboのお菓子。イベント限定のお菓子セット「Hang Bag」(写真)を求めて多くの人が会場に訪れていた。約3年前に根室市の移住交流推進員として東京から移住した野﨑さんと中村さんは、仕事を根室で作ることを目標にVOSTOK laboを立ち上げ、食を通じて土地と人をつないだ。その任期もこの春、終了。気持ち新たにVOSTOK laboとして、東京と根室を往復しながら活動をしている。


Special#26 バックナンバー

Eastern 釣りに行こう。- 前編 –

Eastern 釣りに行こう。- 中編 –

水島 七恵
水島 七恵
編集者。新潟生まれ。人の営みから生まれる文化全般を思考領域としながら、企画とディレクション、執筆を行う。現在、雑誌「リンネル」(毎月20日発売)にて、新作シネマレビューを担当中。この仕事につく原点は、音楽。最近目覚めたことは、筋トレ。私にとって編集とは、世界の見かたを増やす手段だと思っています。主な仕事については、下記HPまたはinstagram(@nanae0712)でときどきお知らせしています。

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