エレクトリック・チャーチ

日々、意味>新 2017.06.20 野本 哲平
十代の頃初めてヨーロッパを訪れて、様々な教会や大聖堂を巡るということをしばらく繰り返したあとに感じたことといえば、ここはクラブみたいな存在なのではないかということだ。
パイプオルガンという自慢のサウンドシステムと、音響に配慮された空間で人々を待ち受ける。それらの装置や建築は教会ごとに個性があり面白い。
教会は祈りの場であると同時に、思考の場になり、社交の場になり、何かをリセットできるスイッチのような場所にもなる。
先日、ワタリウムで行われていた、坂本龍一さんの設置音楽展に行った時に、2Fでふとその感覚を思い出した。
その展示は暗闇の部屋にドイツのmusikelectronic geithain社の5.1chのサウンドシステムが設置されており、訪れたものは皆、暗闇の中で椅子に座り前を向いて新しいアルバム『async』を聴くというものである。時間でいうと小一時間だっただろうか。その小一時間が現代社会ではなかなか得難くなってしまった、「無」の時間とでも言うべく贅沢な体験であった。「無」が贅沢だなんて、なんだか矛盾しているようだけど。
人によってはひょっとしたら、展示量的に物足りなさを感じた人もいるかもしれないと思ったが、個人的には都会に突如現れたエレクトリック・チャーチとでもいおうか、適度で良い展示だった。
クラブでもない、教会や神社や寺でもない、現代人の音を聞く権利を満たしてくれる、エレクトリック・チャーチのような場所がもっとあってもいいのかなあと思いました。
~民具木平の市場調査 第26回 エレクトリック・チャーチ ”Electric Church”〜
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