柳宗理デザインの「エレファントスツール」。空間にも体にもなじむということ。

日々、意味>新 2017.09.08 加藤 孝司

だいたい家具は、長く愛用するタイプだが、それでも一生モノと思って買ったものを手放さなければならないことも多々あった。

そんななか、20年近く愛用している家具のひとつが、柳宗理がデザインした「エレファントスツール」。柳宗理デザインのスツールには天童木工から今も生産されている「バタフライ・スツール」があるが、これは素材もかたちもどこか未来的なデザイン。1954年にデザインされたものだというから驚きだ。発表当初は家具メーカー、コトブキからリリースされていたが、これは2000年にイギリスのハビタから復刻されたもの。素材はFRPで、現行品はリサイクルできるポリプロピレンだから、同じFRP素材でつくられたオリジナルコトブキバージョンとほぼ同じ。ハビタ製エレファントスツールは1万円以内で買える、非常に安価なデザインアイテムだった。僕は同時期に色違いで黒と合わせて代官山のそれぞれ違うお店で2色購入。当時は、カーサ・ブルータスの柳宗理特集号で、当時ハビタのディレクターだったトム・ディクソンが、映像アシスタントにオランダ人デザイナー、リチャード・ハッテンを引き連れて来日、ハビタ製エレファントスツールのサンプルを携えて柳事務所を訪れたレポート記事が掲載されていたので、デザイン好きには注目された待望の復刻だった。スタッキングもできるが、ハビタ製には座面裏にラバーが付いていて、重ねるとそのゴムが重ねた面にべったり付くというしろものだった。復刻から1年ほど経ち、製造ラインの問題で不良品が多く発生したとのことで、早々に販売が終了。今ではオリジナルのコトブキ製エレファントスツール同様レアアイテムとしてプレミア価格で取引されている。

実際の使い心地だが、座ってみるとこれがとても座りやすい。一体成型で作り出される曲線は、人間のかたちがよく反映されていて、さすがだなあと関心させられる。だが、意外と大きいので、しばらく重ねて倉庫にしまったままだった。最近、ベッドなどを整理した広々とした部屋に置いてみたら、なんだかしっくりした。服も家具もそうだが、背伸びして手に入れたものも時が経つと、体にも空間になじんでくるものだ。広々とした部屋にこのスツールを置いてみて、なんとなくそう思った。

 

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