「いい質問ですね。」

日々、意味>新 2017.02.15 水島 七恵

昨年(2016年)、雑誌リンネルのシネマページ、リニューアル第1号として私がフォーカスした作品は、8月6日から新宿シネマカリテほか全国公開予定の、グザヴィエ・ドランが出演している『神のゆらぎ』でした。今をときめくグザヴィエですが、主演ではなくあくまで出演、という点もまた、脚本の完成度の高さも相まって、納得の一言でした。グザヴィエはあくまで作品の一つのピースにすぎなかったのだから。

 

こんな風に長く映画の記事を書かせていただいているので、「映画に詳しいんですね」と時々聞かれますが、そんなとき、「はい」と私は素直には言い切れずにいます。もちろん、仕事としてお引き受けしているので、書いたレビューには責任を持っています。けれど、映画に詳しいという前提は自分にはないし、ましては肩書きとして「映画ライター」とは言えない。今日は映画のことを、明日は建築のこと、明日は、、と、日々、違うことに頭をシフトしながら、編集したり、執筆したりしている私は、専門分野がないという自覚があります。流れのまま、好奇心のままに歩んできた結果が、今の自分の現在地。

世界はつくづく人それぞれの主観で成り立っていて、だからこそ、他者がそれぞれの見かたと判断で私に仕事を依頼してくださる。それがきっと正解で、私のなかには正解がない。それでいいのだと思うようにしています。

 

一方で、馴染みある世界ではなく、知らなかった世界に飛び込んでいくということは、仕事上、お相手にご迷惑をおかけしたり、ミスに繋がっていくというリスクも当然あります。実際、知識や勉強が足りず、その世界では当たり前としている「前提」がわからず、先方に不安感を与えてしまったのではないだろうか….と思う場面は、これまで何度かあります。編集者として書き手として、それは本当に心苦しいことで、それは今も日々、そのリスクを抱えながら仕事をしています。それでもそのリスクを越えて、いろんな分野の境界のあいだを行き来しながら仕事をしているのはなぜか?ふと考えた時にはっとしたのは、「問いを立てる」ということでした。

 

問い。

 

対象に対して適切な問いを立てる。その問いこそが、その分野や専門家と読み手をつなぐ架け橋になります。つまり私の仕事の起点にはるのは「問いを立てる」こと。良い問いを立てることさえできれば、あとはスムーズに走ることができるのです。

 

「いい質問ですね」

 

良い答えを持つよりも、良い質問、良い問いができる人になりたい。なぜなら答えは人それぞれ違うものだから、問いこそがばらばらの人の心をつなぐ、味方になるような気がしているから。そうなれたらいいな、という願いも込めて、これからもできるところまで走り続けたいと思います。

水島 七恵
水島 七恵
編集者。新潟生まれ。人の営みから生まれる文化全般を思考領域としながら、企画とディレクション、執筆を行う。現在、雑誌「リンネル」(毎月20日発売)にて、新作シネマレビューを担当中。この仕事につく原点は、音楽。最近目覚めたことは、筋トレ。私にとって編集とは、世界の見かたを増やす手段だと思っています。主な仕事については、下記HPまたはinstagram(@nanae0712)でときどきお知らせしています。

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