すべては本質を問うことから始まるのではないだろうか。

日々、意味>新 2019.08.02 加藤 孝司

先日、東京都現代美術館でおこなわれた国内最大となるアートブックの祭典「Tokyo Art Book Fair」には、4日間で3万人以上が来場し、あらためてアートブックが注目されていることを実感させた。普段は美術作品が展示される空間には、アートブックや写真、絵画や雑貨などを販売するブースが並び、すれ違うのも困難なほどの賑わいだった。

Tokyo Art Book Fairの楽しみはそれぞれの出店者の本はもちろん、そのつくり手にリアルに会えること。僕にとっても普段から敬愛する作家たちがブースにたち、お客さんと会話をしたり、熱心にサインする姿が見られたことはワクワクする体験だった。またアートブックにまつわるエキシビションも開催され注目を集めていた。

こういったイベントは来場者として参加するよりも、主催や出店者として参加するほうが楽しいというのは僕の持論のひとつだ。その意味で今回のTokyo Art Book Fairではエキシビションのひとつである日本のアーティストブックに関する展示に関われたことは、大きな喜びであった。

その展示とは「Japanese Artists’ Books: Then and Now」。12名の作家による、日本のアーティストブックを巡る考察と対話にまつわるエキシビションだ。展覧会場では、作家が収蔵する貴重なアーティストブックと作家によるアーティストブックを並置して展示。合わせてインタビューテキストのハンドアウトも作成した。

この展示の目的はそもそもアーティストブックとはなんなのか?あるいはアートブックとアーティストブックの違いとは?アートブック=アーティストブックに対していま一度問題提起をすること。アートブックフェアとは、アーティストがつくる印刷物が出展されることが、通常のブックフェアや同人誌などが販売されるコミュケなどの出版物にまつわるイベントとは異なるところだろう。

現在世界各地でアートブックフェアが開催されているが、そのきっかけのひとつは本をコミュニケーションの手段として、あるコミュニティの情報をシェアすることだった。アーティストによる小さくても確かな表現が、アートブックフェアという場をもつことで、そのコミュニティを切実に必要とする人たちのもとにシェアされ、それが拡散する。それこそが10年、20年たち、その次代を振り返ったときに同時代的なアートやカルチャーにおいて重要な意味をもつ。

アートブックフェアを舞台に小部数の印刷物であるZINEやリトルプレス、あるいは特色をもった出版社による印刷物をツールに、人々のコミュニケーションが加速し、それまでにないつながりが生まれたことは確かなのだが、徐々にそれが個々の印刷物のクオリティよりもコミュニケーションに主眼が移動したことは否めないのではないか?

ここではそれを詳細に語ることは控えるが、当のアートブックフェアでそのことが問われた意義は小さくない。また、今回インタビューをさせていただいた12名のアーティストによる言葉も興味深いものばかりだった。機会が何かのかたちでご覧いただける機会をもつことが、アーティストブックを巡るこの本質的な問いにさらに深く向き合うことになるのではないかと僕は考えている。