四角いと丸く収まる

日々、意味>新 2018.03.31 橋本 司

トイレットペーパーを見ると、友人宅で「RE DESIGN 日常の21世紀」を読ませてもらった時のことを今でもたまにふわっと思い出します。そこに載っていた、建築家の坂茂さんがデザインした「四角いトイレットペーパー」が衝撃的で、当時の僕にたくさんの気付きを与えてくれました。

 

四角い芯に巻きつけられたトイレットペーパーは紙をひき出す際にカタカタと抵抗が生まれるので、紙の無駄使いを抑えることができるという。その視点は漠然と「使いやすい方がいい」と思っていた自分にとって、まったく新しい視点でした。「使いやすい」は消費者のメリットとしか思っていなかったので、それ以来「使いやすくすることで消費を促して購入サイクルを早める」といった企業側の利点も含まれているのかもしれないとか、耳触りのいい言葉には注意するようにしようと考えるようになりました。

 

現にものによって消費量は左右されるようで、デザイナーの森正洋さんはある料理店の器のデザインをした時「これだと年間でドラム缶◯本分醤油の使用量が多くなってしまう」という理由で取り皿のサイズを見直すことになったんだそうです。つまり、器のサイズによって「これくらいかな」と感じる量が変わってくるってことなんですね。だから、クルクルとスムーズに紙が出てくることで、体感的な適量が増えてるということはぜんぜんあることなんだと思います。

 

他にも、四角くすることで運送時の無駄な余白がなくなり運送コストが下がるなど、ものが生まれてくるまでにどういったことが考えられているのか、思考のプロセスを垣間見られたようでとても勉強になりました。

 

残念なことに実際に四角いトイレットペーパーを作ろうとすると、四角い芯に対して従来のスピードで紙を巻きつけると切れてしまい、切れないようにすると生産効率が落ちてしまうので、コスト面で実現は難しいんだそうです。それでも、世界中に同じ形で流通しているものに対して+α的な改良ではなく、このまったく新しい視点からの回答にはただただ感動するばかりです。