街をいきいきとさせるもの。

日々、意味>新 2019.06.21 加藤 孝司

昨日、トシさんの案内で6月15日に福岡にオープンしたばかりの「やず本や」に行ってきた。
まず店名。やずとは、このお店を手がける青汁やサプリなどで知られる健康食品大手の「やずや」の屋号から、そして本やとは、この場所が文字通り本屋であることからつけられている。

店舗の構成は一階が書店兼カフェ、二階三階がライブラリー併設した会員制の書斎(ラウンジ)という構成。

書店の書棚には「やず本や」らしい背景のある、こだわりをもった本が並ぶ。健康や食に関する書籍や専門書はもちろん、雑誌、小説、ガイド本や、結構マニアックな本がテーマごとに集められていて、本棚をみていて飽きない。福岡や九州に関する本も充実している。
カフェでは、ハンドドリップのコーヒー、茶どころ福岡らしくお茶や、ほかのカフェではなかなかお目にかかることができないメニューとして本格的な青汁が飲めるのも嬉しい。またフードメニューとしては、特別に開発したという青汁が生地に練り込まれパンなんかもあって流石だなあと思った。

会員になった人や書店で本を買った人などが利用できる二階三階の書斎は、インテリア好きにとってはたまらない空間でまさに圧巻。書棚には健康に関する本や小説、写真集に加え、一冊数万もするレア本も当たり前のように並んでいて自由に閲覧できる。
本を読む場所も、パーソナルに本と向き合えるようにデザインされたオープンスタイルのソファスペースや鍵付きのドアがついた個室、のびのびとしたラウンジといったしつらえ。
三階の無造作に置かれた家具も、ディーター・ラムス(620チェア)やル・コルビュジェ、ヘラ・ヨンゲリウス(The Worker)らがデザインした名作揃いで驚く。ここら辺の家具のセレクトはトシさんこと僕の友達の田中敏憲さんによるもの。これらの椅子に座って読書をすることだけを目的に会員になってもいい!と思わせるものだ。

とにかく、どうしてこの場所にこんなすごい本屋が?と不思議に思ったが、企画チームには数々のプロジェクトや企画を手がけるあの伊藤総研さんや、アハト田中敏憲さん、イラストレーターの塩川いづみさん、インテリアデザインはMOVE DESIGN 坂本幹男さん、アートディレクター山田英二さん、編集REDACTIONの多田真文さん、カフェコーディネートにはClick Coffee Works古賀由美子さん、テクニカルディレクター5ive Inc.下村晋一さん、そして本のセレクトには近年では神保町ブックセンターを手がけた内沼晋太郎さんが参画しているというから腹落ちする。

やず本やがある大楠とは市の商業の中心部である天神や薬院、博多駅からはそんなに離れていない場所で、最近、雑誌を賑わす「モアライト」や「ブルーモ」といった注目のショップが、続々オープンしているエリア。やず本やがある大通りだけでなく、住宅が広がる付近の裏道にも小さなパン屋や雑貨屋、ヘアサロンなどが点在していて、これからさらに注目の場所になりそうだ。
本は人の精神をつくるもののひとつであり、本屋は街の文化をつくるもののひとつであることは間違いがない。街から本屋が消えつつあるといわれる今、企業が本で文化を伝えるという決断はまさに英断というべきものだろう。今回時間の都合で駆け足で回ったが、次回来福の際にはあらためてゆっくり巡る楽しみができたと思っている。

やず本や
福岡県福岡市南区大楠1-34-16
https://www.yazuhonya.com

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