見慣れた街の中で
東京に暮らしていると、さまざまな物事の流れをとても早く感じる時とゆっくりと感じる時がある。ミレニアムに湧いたのはつい先日のことのようにも感じるし、だいぶ先のことのように感じていた2020年がいよいよ一年後に迫っている。そしてこの5月には平成から新しい元号に変わる。2019年は私たち日本人にとって、とても大きな節目の年になりそうな気配がする。
その変化は人の心の中のみならず、風景の中にも現れている。
敬愛する写真家の一人である牛腸茂雄は最晩年の作品集である「見慣れた街の中で」(1981年刊)の冒頭にこう書いている。「拡散された日常の表層の背後に、時として、人間存在の不可解な影のよぎりをひきずる。私は意識の周辺から吹き上げてくる風に身をまかせ、この見慣れた街の中へと歩をすすめる。そして往来の際で写真を撮る」
私たちは2019年という年の、この見慣れた街の風景の中にどんなものを見て、何をどう記述するのだろうか。見慣れたものに見慣れないこと、そこに問いを投げかけることが必要とされているのかもしれない。