自分たちの街を知る、ということ。

日々、意味>新 2019.05.03 加藤 孝司

福岡という街をベースにさまざまな業種で活動する人々が集まり、地域性のある文化を大切にしながら、年に一度開催していくFACT(Fukuoka Art Culture Talk)。自分たちの街を「知る」をキーワードに行われたそのキックオフイベントに参加し聴いた、NICについては前回書いたが、後編ではアーキテクト、アーバニストたちが参加し、時代とともに変わりゆく福岡の街について考えるトークイベント「まちづくり × Fukuokaを知る 〜これからの福岡と場づくりを知る〜」についての覚書を綴りたい。

登壇したのは、福岡地所 開発事業部 課長の田代剛さん、西日本鉄道 まちづくり推進本部 福ビル街区開発部の花村武志さん、日建設計 九州代表補佐の川端亙さん。
司会は建築家でリズムデザイン代表取締役のFACTメンバー井手健一郎さん。井手さんは建築家でありながら、2005年より天神エリアを中心に展開したデザインのイベント「デザイニング」を企画・プロデュースした人。僕も以前、デザイニングにはトークイベントのモデレータとして参加したこともあったり、2010年には「architecturephoto.net」というウェブサイトで取材した経緯もある旧知の仲だ。

https://architecturephoto.net/24512/

 

この街では今、博多の中心市街地である天神地区で、福岡市主導による規制緩和をひとつのきっかけに民間再開発促進事業「天神ビックバン」が進行中だという。
現にいま、老朽化を理由にいくつものビルが解体され建て替えることが計画されているのだとか。街を歩いていると、実際にすでに更地になっている箇所もあり、そのひとつ、西鉄グランドホテルの隣にある旧大名小学校跡地では、先ほどの規制緩和により高層ビルが計画され、建設前から街の風景が大きく変化しつつあることを印象づける。

川端さんからは、江戸時代の末期 国際貿易港の時代からの福岡の成り立ちが語られた。明治23年博多駅開通、昭和11年 岩田屋開業、昭和38年に博多駅移動と、目に付いた大きなトピックをみただけでも、 現在人口 157万人の大都市となった福岡が都市開発とともに大きく変化してきたことを想起させる。
ビル、道路、街のインフラが老朽化していくなか、機能更新が必要が求められているのが現在の福岡の状況。
「メガシティ化ではなく、街の賑わいを背景に古いものを残しながら、メリハリをつけながらの開発が必要」と川端さん。

「官と民が手を組んで都市開発を行う日本でも数少な例、それが福岡だ」と井手さんがいうように、この街ならではの気風を生かした、血の通った開発が望まれる。

 

田代さんから語られた2021年に竣工予定の「天神ビジネスセンター」は、天神ビッグバンの第一弾再開発事業。設計にはグローバルな視点をもった建築家の選定により、オランダの世界的な設計事務所OMAが担当。建築、デザイン界ではすでに大きな話題となっている。
これも空港が近い博多にあって、航空法の規制緩和の恩恵をうけ19階建ての高層ビルとして計画される。
田代さんは、「文化に寄与する建築をつくる。さまざまな視点で福岡という街が語られる契機になれば」と意気込みを語る。
カーテンウォールが街路に向かうに従って削り取られたようなデザインは、街行く人々にとっても印象に残る、天神エリアの新しいランドマークになるだろう。
新しい経済拠点の創造として、スタートアップ系企業を牽引する拠点になるという。

 

西日本鉄道まちづくり推進本部福ビル街区開発部の花村さんからは、今回のイベントの舞台でもある1961年竣工の福岡ビルの歴史、そして福ビル再開発の第1期となる天神ビッグバンの進展が、西方地震を契機に起こったものであること、それが目指すところと展望が語られた。
そこで印象に残ったのは、「街全体を見渡し、時間軸とつなげながら、どうつくり変えるか」という言葉。
東京、上海などメガシティとは異なり、小ぶりだが歴史や地理的な特徴があるユニークな街という、セカンダリーシティという福岡の位置付けで、福岡ならではの街づくりができるのではないか?「アジアで最も創造的なビジネス街」というキーワードもあったが、求められるのは暮らしやすい街ならではの働き方が、そこでの生活の利便性や心地よさを大切にしながら設計されることになれば、それこそが他の都市にない大きな強みになることだろう。

 

イベントが行われた福ビルは、2019年3月末で閉館し、随時解体される隣接する街区とともに2023年、その翌年と新しい複合ビルとして生まれ変わる。
僕が訪れたときは、親しまれたこのビルを名残惜しむように、「福ビル 思い出交差展 〜感謝と記憶を未来へつなぐ〜」というこのビルへの愛を感じさせるエキシビジョンが開催されており、多くの市民で賑わっていた。
時代の移り変わりとともに街の様相が新しく生まれ変わることは必然だろう。だが、そこにそこで生活をする人への視点が抜け落ちては元も子もない。なぜなら、街はそこでの経済的なダイナミックな動きとともに、人の暮らしや、人が生きていく上で心の拠りどころとなる「思い出」といったセンチメンタルなものと密接に関係しているのだから。古きを知ることの重要性(=NIC、街並み)とともに、新しきを知る(=FACT)動きが同時に並行的に起こっているこの街なら、その二つが共存した、血の通った街づくりが行われると信じたい。

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