112017

Special #21

プロセスに介入しデザインする

岩元航大氏インタビュー

Photography & Text : 加藤 孝司

いま注目を集めるデザイナー、岩元航大氏の新作スツール「BENT STOOL」が、マークスインターナショナルからリリースされる。
岩元氏はロジカルな方法で素材にアプローチし、ものが生まれるプロセスに介入しながら新しいかたちを生み出すデザイナー。
産業とデザインの関係性に興味があるという岩元さんの生い立ちから、海外留学をへてフリーランスのデザイナーになった現在まで、
そのデザインアプローチの根源について話をうかがった。

プロダクトを越えていくもの

いまおいくつですか?

27歳です。

同世代のデザイナーにはどんな方がいますか?

インハウスでデザイナーをやっている人が多いですね。私は神戸の大学をでて何年かスイスのローザンヌのECAL(ローザンヌ美術大学)に行っていたのですが、そこで一緒だった日本人の方は大学や、スイスに残って働いている方もいます。

岩元さんのようにフリーランスになる方は多いのですか?

日本人だと少ないですね。海外の人は個人でやっている人もいます。私の場合は海外にいるときにも展示会に出させて頂く機会があり、神戸の大学時代には「DESIGN SOIL」というデザインプロジェクトでミラノサローネやアビターレに参加させていただいた経験がありました。展示会ベースでお仕事をいただいたり、ECALを卒業したあともいろいろとお仕事をいただいています。

日本の大学をでてすぐにスイスに行かれたのですか?

3ヶ月間フィリピンのセブ島に英語の語学留学に行ったあとですね。「DESIGN SOIL」に参加したことをきっかけに、スイスのECAL(ローザンヌ美術大学)やオランダのデザインアカデミーアイントホーフェンを知り、作品だけでなく、海外の学生たちの作品を通じてのコミュニケーション力や造形力の高さを痛感していました。そんな力が自分にも必要だと思い、海外留学を決めました。

なぜスイスだったのです?

イギリスはアウトプットもデザイナー自身もスターになったりアーティスト志向、オランダは科学的であり実験的な手法だと自分では感じていました。一方スイスは歴史的に産業デザイン的に感じていて、授業を通じてそんな実践的な力を身につけたいと思いました。それでスイスに留学することに決めました。それとECALで教鞭をとっているスペイン人デザイナー、トマス・アロンソのもとで学ぶということも目的でした。彼にはスイスに行く数年前に「DESIGN EAST」というイベントでお会いしていたり、作風も含め影響を受けています。

ECALをでて帰国後すぐに独立されましたが、学校をでてすぐに社会でデザイン活動をしたいという目的があったのでしょうか?

そうですね。

そこで岩元さんが目指したはどのようなものでしょうか?

私がデザインというものを考える上で根底にあるのは、デザインという言葉はビジネス用語のひとつにすぎないということです。商品を売るための戦略のひとつがデザインです。デザインを始めた当初から産業とデザインの関係性に興味がありました。アート的なデザインにも興味はありますが、自分がアウトプットするものはそういったものではありません。それとは逆に思われるかもしれませんが、ものとして存在し、ある空間に置かれる以上は美しくなければいけないとも思っています。それは美術館の彫刻のようなものです。ものである以上、スカルプチャー的な一面が必要だと思っています。プロダクトという範疇を越えていけるような要素も必要だと思います。方法はいろいろあると思いますが、このスツールでいえば素材の特性や加工方法に着目することで、造形的な美しさを引き出せるように取り組んだ点です。

BENT STOOLについて。
新しいファンクションを考える

スツールのお話がでたところで、新作「BENT STOOL」の製作の経緯を教えてください。

このスツールは「チューブフラットニング」というパイプをつぶして溶接する加工法でつくっていますが、それはさまざまな加工方法や製造方法を調べているうちに出合ったものです。

ではこのスツールは一本のパイプをどう扱うかというところから生まれたプロダクトなのですね。

はい。ECAL卒業後帰国をしてからは、就職活動をする気もなくて、自分でデザインをして販売するところもまでできる方法を模索していました。
そこでまずは資本もないので、自宅にある小さなワークショプスペースでできることはないかと考えました。そこにある道具でつくれるものというのがスターティングポイントでした。それは実は工房にある工具や機械でものをつくる「Design Soil」と同じでした。道具も限られ、そこでできることはミニマルな加工法くらいだったのですが、そんな単純な加工方法を調べているときに、パイプとパイプをジョイントしたり、自転車のフロントフォーク製造などに使われている「チューブフラットニング」という加工方法に出合いました。これまで家具作りではあまりフォーカスされてこなかった、何百年も前からあるローテクな技術でした。逆にそれが僕にとって新鮮で面白かったんです。
それでハンマーでつぶしたり、万力で押し潰したり、パイプのつぶし方をリサーチしていたのですが、そのときに「チューブベンディング」というツールに出合いました。そのツールというのは、中のつまった金属の芯材を軸に沿って曲げるという道具で、これでパイプを曲げてみたらどうなるだろうかと実験的に曲げてみました。そうしたらうまく曲がったのですが、軸からはずれなくなってしまって。これは困ったと(笑)。ですが、曲げたパイプが何かを固定するということが、別のファンクションにつながらないかなとそのとき思いました。いわばエラーから生まれたアイデアがこのスツールの「関節」というファンクションになりました。

失敗がある種個性になったのですね。「BENT STOOL」の製法も同じ要領ですか?

特別な型を使ってスチールのパイプをプレスし、そこに同じ経のパイプを挟み込んで溶接しています。最初はアルミでつくったのですが、販売する製品は強度のことも考えてスチール製にしています。量産で精度を出すのは難しい技術ですが、製造工程は基本的に同じです。小さなワークショップでもできるような加工法ならどこでも安価で簡単に作れるだろう、と言う当初の予想が功を奏しました。

この製法を着想したときからこのかたちだったのですか?

いえ、最初は「チューブフラットニングプロジェクト」の一環として、いろいろな試作をつくりました。何度もスタディした結果いまのかたちになり、最初は「Tube Flattening Stool」として2015年にミラノサローネで発表しました。

マークスインターナショナルから発表することになった経緯を教えてください。

ECALに在籍していた2015年のミラノサローネ出展の際、マークスインターナショナルのオリジナルブランドDUENDEで製品化させてくれないかと声をかけていただいたのがきっかけでした。海外のメーカーからもお話があったのですが、その年の6月に帰国することになっており、国内でできたらと思っていましたので、タイミングもすごくよかったです。

製品化するにあたり難しかった点を教えてください。

スチールのパイプを曲げる際にアールの大きさによってはひずみがでてしまい、きれいに曲がりません。そのディテールの調整が難しかったですね。製造は金属のプロダクトを多く作ってらっしゃるマークスインターナショナルさんと協議のうえ進めました。自分でつくったものを含めると、ここに至るまでかなりの数の試作をつくりました。今月開催のIFFTで、スツールとハイスツールの2種類をお披露目します。

最小限の要素で最大限の影響を与える

シンプルなかたちと製法、最小限のパーツで構成されている点などは岩元さんの作品の特徴だと思いました。そこに岩元さんの一貫した探究心を感じました。

最小限のものからそれまでにない機能性や魅力を引き出すかというところに興味があります。この「BENT STOOL」も、最小限の材料と加工方法で、どれだけ美しく機能的なスツールをつくることができるというところから生まれています。本来であれば、ジョイントのパーツがいくつか入ってくるところですが、それをなしに座面と脚のみの最低限の構成でできないか考えていました。

その探究心を築くきっかけについてもいくつかご質問させてください。神戸芸術工科大学の学生時代にメンバーだった「Design Soil」は岩元さんにとってどのようなきっかけになりましたか?

幅広い意味でのデザインに興味をもつきっかけが「Design Soil」でした。このプロジェクトをディレクターとして率いているのが、元E&Yで神戸芸術工科大学の助教の田頭章徳さんでした。田頭さんから当時僕が知らなかったデザイナーやデザインについて学び、ミラノサローネもそうですが、こんな世界があるんだということを教えていただきました。Design Soilには学生の他に教員や助手の方々もメンバーとしているんですが、ゼミの先生でもある見明先生や、当時工房助手をされていた馬場田さんや松本さんからもモノ作りの基礎を学びました。

デザイナーにならなければどんな仕事をしていましたか?

生まれが鹿児島で、家が家業をしていました。ですので、親の仕事を継ぐということではなく将来は起業家になりたいと思っていました。デザイナーになったひとつのきっかけでもあるのですが、祖父と父が以前、漁師をしていた影響もあり、もともと釣りが好きで、道具としてのリールが大好きでした。なかでもシマノの「スコーピオン アンタレス」というリールが好きで、学校見学で神戸芸術工科大学を訪れた際に、この学校の関係者が手がけたものとしてこのリールが展示されているのをみました。いま私がデザインしているものとはまったく違うのですが、いい意味で固定概念を崩されたというか。親からはものの構造をしっかりみなさい、自分の頭で考えなさい、と小さな頃から言われていました。

スイスではどのような影響を受けましたか?

それまでは、家具と生活用品などアナロジカルなものしかデザインしてこなかったのですが、ECALではデザインはそれだけではないということを改めて学び、電化製品、インスタレーションデザインなど、より広い意味での工業デザインにも興味を持つことができました。それとそれまではメーカーや企業などの依頼でデザインするのがデザイナーの役目だと思っていたのですが、近年デザイナーの役割も変わってきており、つくるプロセスまで介入することも少なくありません。そういった意味ではデザイナーの仕事も変わりつつあるということもECALで学びました。授業には、クラウドファンディングで資金を集め、量産するというものもありました

かなり実践的ですね。

デザインをし、加工先を探し、製品の単価を決めるところまで大学の授業では求められました。

2016年の7月に帰国されてすぐにご自身の事務所を立ち上げたのですか?

立ち上げたというよりも、帰国してすぐにマークスさんにお仕事をいただいたこともそうですし、気づいたらこうなっていました。

いまはどんなお仕事をしていますか?

ノルウェーのブランド、タイのメーカー、国内でもいくつかプロジェクトが進行中です。それと昨年からイギリスのセントラル・セント・マーチンズやオランダのリートフェルト・アカデミーなど、世界のデザインスクールを卒業した国内の若手デザイナーたちとともに「RE-IMPORTATION」というデザインのエキシビションを企画し、全体のプランニングの担当もしています。昨年は外苑前、今年は六本木で行い、私は金属のメッシュを加工製造販売している国内のメーカーと実験的につくった照明の試作を出展しました。

岩元さんにとってデザインとは?

うまく言えませんが、人とコミュケーションをとるための方法です。前述の通り、近年はデザイナーに求められることも徐々に変わってきており、単にスタイリングするだけでなく、製造先の手配やPR、販売などにも関わることが増えているように感じます。そういった中、デザイナーは必要に応じて様々な業種を繋ぎ合わせそこを自由に横断することでプロジェクトを前進させ、時には造形で時にはグラフィックで、と柔軟な発想でモノの魅力を引き出させるような存在であるべきだ、と考えます。私もそのような人間になりたいです。

岩元航大

1990年鹿児島生まれ。2009年神戸芸術工科大学プロダクトデザイン学科に入学後、デザインプロジェクト「Design Soil」在籍。2014年スイスに渡り、ローザンヌ美術大学(ECAL)で学ぶ。2015年、帰国後Kodai Iwamoto Design設立。2016年にシンガポールで開催されたIFFSでDESIGN STARSに選出、デザインエキシビション「RE-IMPORTATION」を主宰するなど精力的に活動する。2017年11月、マークスインターナショナルのオリジナルブランドDUENDEより、新作「BENT STOOL」を発表する。

加藤 孝司
加藤 孝司
加藤孝司/かとう たかし
デザインジャーナリスト。東京は浅草生まれ。デザイン、クラフト、アートなどを横断的に探求、執筆。雑誌やウェブなどへの寄稿をはじめ、2005年よりはじめたweblog『FORM_story of design』では、デザイン、建築、映画や哲学など、独自の視点から幅広く論考中。休日は愛猫ジャスパーと過ごすことを楽しみとしている。

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