102018

Special #31

みんなが気軽に写真を撮ることが出来る時代のカメラの役割
オリンパスOM-D E-M1 MarkII開発者インタビュー

Text & Photography加藤 孝司

スマートフォンが一般化し、多くの人が気軽に写真を楽しむ時代になった。
ひと昔前までは、写真を撮るのはカメラと決まっていた。

だがかつてと今とで、写真の意味が変わったかといえば、決してそんなことはない。目の前にあるものを記録したい。

そしてより美しく記憶したい。そのような思いはいつの時代も変わらない人々の欲求だろう。
そんな時代におけるカメラとは、写真とは。

 

今回フィルムカメラ時代の精神を受け継ぎながら、
新しい時代のカメラを作り続けるオリンパスの高橋純さんと鯛中大輔さんに、
オリンパスの一眼カメラのフラッグシップ機「オリンパスOM-D E-M1 MarkII」のものづくりへの思いから、
スマートフォン時代の今の写真への思いを伺った。

フィルム時代のカメラの遺伝子を引き継ぐ

オリンパスのフラッグシップカメラであるOM-D E-M1 MarkIIの開発の経緯について教えてください。

鯛中

弊社がミラーレスのレンズ交換式の一眼タイプカメラを最初に発売させていたただいたのは、2009年のオリンパスPEN E-P1になります。その3年後に発売したオリンパスOM-D E-M5は、オリンパスの中ではミドルレンジと位置づけているモデルになります。そこからさらに高級機、プロ向け、ハイアマチュア向けということでOM-D E-M1を開発した経緯があります。そして2016年に発売したのが今回ご紹介いただくオリンパスOM-D E-M1 MarkIIになります。

現在のラインナップとしてはミドルレンジ向けのM5 MarkⅡ、エントリーモデルとしてM10シリーズと、オリンパスのデジタルカメラは3つのラインナップで展開しています。

一眼レフやミラーレス、センサーフォーマットの違いなどレンズ交換式カメラの市場は多様化していますが、オリンパスが一貫してこだわるミラーレスの良いところを教えてください。

高橋

一番には機動性の高さが挙げられると思います。一眼レフカメラはボディが大きくて重い、そしてミラーショックが大きいという点がありました。オリンパスではフィルム時代からそのすべてを解消しようという思いでカメラの開発を手がてきました。しかもコンパクトだけどシステムがしっかり揃っていて、どこに行ってもいい写真が撮れるカメラというオリンパス伝統の思想を受け継ぎながらです。ですのでコンパクトなサイズ、軽さ、高い機動性を考えるとミラーレスに行き着きます。

OM-D E-M1 MarkII+オリンパスM.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PROで撮影

OM-D E-M1 MarkIIのセンサーにマイクロフォーサーズを搭載している理由を教えてください。

鯛中

それもやはり機動性が関係しています。フィルム時代から続く35mm換算でのフルサイズセンサーではなく、少し小さなサイズのセンサーを採用することで、カメラもそうですが、レンズも含めてコンパクトにということを目指して開発しています。フルサイズ、マイクロフォーサーズ、どちらがいいかではなく、どちらにも一長一短があります。私どもとしては、どちらも共存していければと思うのですが、荷物を軽くしたい、機動性よく動き回りたい、そういう方にはミラーレス、マイクロフォーサーズを選んでいただけるのかなと思っています。

高橋さんのカメラ「オリンパスOM-1」

コンパクトで機動性の高いというのはオリンパスのフィルムカメラ時代から息づいている精神なんですね。

高橋

そうです。実は今日、私が中学二年の時に親に無理を言って買ってもらったオリンパスのフィルムカメラ「オリンパスOM-1」をもってきました。今も現役で使っているんですよ。

とてもコンディションが良くて大事に使われてこられたことが伝わってきますね。コンパクトですがこちらも一眼レフですので、ミラーが入っていてミラーショックがあると思うのですがどんな感じですか?

高橋

もちろんミラーショックはあるのですが、当時の一般的な一眼レフカメラと比較すると小さめですね。

オリンパスOM-1で考えられていた遺伝子がデジタルになっても大事に受け継がれているのですね。

高橋

そうです。


スマホ時代の写真について

現在では携帯電話で写真を撮る人が多く、カメラで写真を撮ることも少なくなっていると思うのですが、コンパクトであるとはいえそれなりの大きさのあるカメラを、どのように使ってもらいたいと思っていますか?

高橋

おっしゃるように写真を撮ること自体でいえば、スマートフォンですぐに撮れてしまう時代です。逆にいえば写真が身近になったともいえると思います。そういうものでは撮れないものを撮りたい方に、カメラを使っていただけるのかなと思っています。

高橋

スマートフォンの画質も年々良くはなっていますが、例えば高画質で望遠での撮影などカメラでしかできないこともたくさんあります。それとカメラを首から下げて歩くこと自体がファッションになっているところもありますね。そういう方々にカメラらしい形をしたOM-D E-M1 MarkIIやオリンパスPENにご注目いただき、さらにこだわる方は中古のフィルムカメラを買う方も多いと聞きます。

それはどのような点が注目されているのだと思いますか?

高橋

カメラで写真を撮るということが見直されているのと同時に、ハードウェアとしてのカメラというものの存在も見直されているのかなと思います。

OM-D E-M1 MarkII+オリンパスM ZUIKO ED 17mm f1.2 PROで撮影

いろんなメーカーからカメラが発売されている中、オリンパスの一眼カメラが違うのはカメラらしい形、例えば一眼レフカメラ時代から続く、ペンタプリズムによる三角屋根など、フィルム時代のデザインを継承されているところだと思います。いわばそのようなカメラらしいデザインにこだわられる理由を教えてください。

鯛中

それはOM-Dの初代機が開発された時にさかのぼるのですが、その際考えていたのは「OMとはなんなのか?」ということでした。自社のデジタル一眼カメラを開発するにあたり、デザインもそれまでのものにはないまったく新しい形に仕立て上げることもできたのですが、私たちはオリンパスのカメラの遺伝子ともいえる「OM」という選択をました。
その時に何を継承して、どこをのばして行くのか、ユーザー視点に立ちながら何度も何度も議論をしました。OM-Dの初号機を開発するにあたりまずつくったのは「デザインブック」でした。これは新しい製品を開発するにあたり、各部署がブレずにいるためのカメラ作りのためのガイドブックのようなものです。

OM-D E-M1 MarkII+オリンパスM ZUIKO ED 17mm f1.2 PROで撮影


F1.2シリーズレンズ

明るく画質の高い高速レンズ。まんべんなく周辺まで明るく解像しながら、ボケの形や味、収差の形にこだわり、プロのニーズを反映させ、満足するものに仕上げたレンズ。デザイン面でも手にしたときに操作部が使いやすい位置に来るように配慮し、ピントリングの幅など細かな部分にこだわった。

デジタルOMを開発するにあたり一番大切にしていたのはどのようなことですか?

鯛中

フィルム時代のOMにもそれぞれいくつか大事な思想があったのですが、その中でも世界の一眼レフカメラを変えたと言われているのが、本格的な一眼レフカメラでありながら、小型軽量ボディを実現したことでした。これには海外のプロカメラマンからも「オリンパスOMは、世界のカメラマンの肩を開放した」と言われたほどでした。それからシステムの拡充です。フィルム時代のOMには「バクテリアから宇宙まで」という有名なコピーがありました。それは顕微鏡や天体望遠鏡まで広いシステムに対応していたことに由来しています。それと「光を操る」ことをユーザーさんに楽しんでもらうこと。これらフィルム時代のOMの思想をデジタルで表現するためには、どのようなカメラにするべきか。そのことを考えていきました。

オリンパスはカメラ本体ではなく、顕微鏡の開発からスタートした会社。レンズは資産、時代に左右されずに使い勝手の良さを考えて開発されているのがオリンパスのレンズ。201620172018と3年連続でカメラグランプリのレンズ部門で金賞を受賞。3年連続は史上初の快挙である。コンパクトな大きさの中に高いレンズ性能を詰め込んだ技術は、長年小型軽量を追求してきたオリンパスならではのもの。

その際大切にしていたのはどのようなことですか?

鯛中

レトロが人気があるからといって、単純にシェイプだけを継承するのではなく、必然性があればそれをデザインに盛り込んでいくということを大切にしていきました。当初掲げていたコンセプトに「オールド&ニュー」というものがありました。これは古いものでも新しいものでも、そのどちらを狙うのではなく、カメラとしての使い心地や使い勝手には究極なものがあり、それと同時にカメラ本来の楽しみ追求するというものでした。

OMから継承するデザインのこだわりを教えてください。

鯛中

グリップの距離感、そしてボディの四隅のデルタカットはフィルムカメラのOMから継承している部分です。これは小さく見せると同時に、手に持った時にしっくりくるデザインです。全体のフォルムはやわらかく包み込むというよりも、塊から彫刻刀で削り出していくような形で、デジタルでもそれを継承しています。それとデジタルだから出来ることとして、EVFのファインダーを採用しています。ミラーレスには一眼レフのミラーがありませんから、シャッターを切った時のブラックアウトする瞬間もないですし、デジタル的にファインダーの中で目の前にあるものを完全に再現する、あるいはデジタル的な処理をしたらどうなるかをシミューレーションしながら撮影することも出来ます。そんなデジタルならではの良さを追求することで、デジタルならではの使い勝手の良さを見つけていきたい。その時に出たコンセプトが「スマートコックピット」というものでした。

オリンパスOM-D E-M1 MarkⅡ

2016年発売のオリンパスのデジタルカメラのフラッグシップモデル。最新のテクノロジーを詰め込みながら、カメラらしいデザインを採用しているミラーレス一眼カメラ。

まさにOM-D E-M1 MarkIIを的確に表現する言葉ですね。ボディの大きさはミラーレスになったことで、フィルム時代よりもさらに小型化されたということでしょうか?

高橋

はい。全体としては小型化しています。ただ小さくなって使いにくくなってしまっては元も子もありません。人間が使う上で最適な部分は残すということは大事だと思います。

確かに、すべてが小さければいいという訳ではありませんよね。昔ながらのカメラ好きの人にとっては、持ったときの重さや大きさが満足感に繋がったり、そもそも人間のサイズにとってフィットする大きさというものがありますよね。それとアマチュアにはアマチュアなりの、プロに近づきたい、プロと同じものを持ちたいという憧れもあります。そういった意味では昔の一眼レフらしい三角屋根など、カメラの形にこだわりながらコンパクトに、というところにオリンパスのものづくりの精神を感じます。

高橋

おっしゃるように、ユーザーさんの中にはカメラらしさを大切にされている方もとても多いので、私どもも現代的な機能だけではなく、カメラに求められる情緒のようなものにもしっかり応えていきたいと思っています。


デジタル時代のこだわり

それは年配の方もそうかもしれませんが、若い人たちも同じように感じている部分はあると思います。最近の20代の中には本質を大切にする若者も増えてきています。そういった意味では若いユーザーにもOM-Dのデザインはウケると思います。

鯛中

そうですね。OM-Dに関してはプロのカメラマンの方との二人三脚で、開発の段階からその声を反映させながら作っていきました。長く使っていただけるような製品になっていると思います。

プロ仕様ということでもっともこだったのはどの部分ですか?

鯛中

ひとつはグリップ部分のデザインです。プロの方は一日中仕事でカメラを持っていますが、超望遠の長くて重いレンズで仕事をしていると疲れるんですね。しっかりしたグリップ性を担保するために、ボディはコンパクトなのですがグリップをしっかり作りました。

それは今回、オリンパスM.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PROという大きなレンズを使わせていただて実感しました。普段大きなレンズは持たないのですが、OM-D MarkⅡのボディに装着すると大きなレンズにも関わらず片手で撮影できることに驚きました。

高橋

グリップの設計には、木型でモックアップをいくつも作って、何度も何度も検証しました。そこでは中指一本だけでバランスが取れるような「安定」を考えていました。

鯛中

弊社には医療分野の部門もあります。長時間の使用で疲れにくいエルゴノミクスデザインに注力しているところもありまして、使いやすさに直結する高いグリップ性の実現は我々の中でも非常に重要なミッションでした。

個人的な感想なのですが、ファインダーに関しては光学的なクリアな見え方が好きで、EVFファインダー独特のデジタルの「見え」が個人的に苦手です。今回OM-D E-M1 MarkⅡを使わせていただき感じたのは、ファインダーの見えの違和感のなさと、ファインダーの中で再生や露出の確認、画像の処理などが手軽にできるEVFの便利さと心地良さでした。

高橋

ありがとうございます。OM-D E-M1 markⅠからmarkⅡになる時に、EVFの解像度も上げましたし、ファインダー倍率の変更、フレームレートなどバージョンアップさせました。

カメラにはあらゆる道具と同じように、気持良さが大事だと思うんです。OM-D E-M1 MarkIIにはそれが過不足なくあると感じました。

高橋

光学ファインダーにはレスポンスの良さなど良さがありますし、EVFにはEVFの良さがあります。それを使い分ける楽しみがあると思います。

OM-D E-M1 MarkIIのファインダーへのプロの方の声はいかがですか?

高橋

好みは置いておいて、仕事に使えるレベルであるとフィードバックをいただいています。

OM-D E-M1 MarkII+オリンパスM ZUIKO ED 17mm f1.2 PROで撮影

カメラの大きさでいえば、大きければ大きいほど被写体に対して威圧も出来ますし(笑)、クライアントにも安心感を与えることもできると聞いたこともあります。でも、今はそういった時代ではなく、使い捨てカメラでファッション雑誌の仕事をしているプロの写真家もいますし、一眼レフからミラーレスに持ち替えているプロも実際に増えています。

鯛中

最近プロの方で使ってくださる方が本当に増えました。


デジタル時代ならではのカメラ作りのこだわり

ボディもセンサーのサイズに関しても、大きさだけが勝負ではないという時代において、今後OM-Dの存在感はあるのかなと思いました。

高橋

撮った写真の見方も昔とは変わってきているのを感じます。かつてはハッキリ、くっきり撮れることが良いとされていて、だからこそ大きなファーマットや解像度、デジタルの時代でも画素数がカメラ選びや売る側にとってのセールスポイントになっているところがありました。ただ今はそういう時代ではなくなっているのを感じています。画素数や解像度が低くても雰囲気があった方がいい、写真の四隅がぼやけていたほうがいいなど、写真に求めるものが多様化していったことで、昔ながらのハーフサイズカメラも見直されていたり、スマホの写真でお仕事をされているという現状があるんじゃないかなと思います。そのように表現の幅が広がったことも、ハードウェアに影響をしてきていると思っています。

おっしゃるように写真の楽しみ方が多様化しているのを感じます。昔のカメラにも増して、今のデジタルカメラには使いこなすことでさらに表現の幅が広がる道具を使う楽しみがあると思います。でも、正直昔のレンジファインダーカメラのような撮ることに集中できるだけのシンプルな機能があればカメラはそれで十分だと思うところもあります。その辺に関してはどのようにお考えですか

高橋

私が中学二年生の時に買ったカメラでは、レンズにフィルターを装着したり、現像をして紙に焼き付ける暗室作業で絵を作ることしかできませんでした。ですが今はカメラの中でそれが出来ると考えていただければいいのかなと思います。

 

OM-D E-M1 MarkII+オリンパスM ZUIKO ED 17mm f1.2 PROで撮影

昔は相当なこだわりがなければ、写真の色味を変えることすらも出来なかったわけですからね。

高橋

今はそれが誰でも手軽に出来る時代ですからね。それと今はスマホで写真にフィルターをかけたり画像処理をしたりすることには皆さん慣れていますので、そのハードルも低く抵抗がなっています。デジタルカメラの中にアートフィルターモードを搭載したのは、実は弊社のデジタルカメラでした。当初はカメラにそれは邪道だとかなり避難されました。今では当たり前になっていますからね。時代の流れはそうなっているのではないでしょうか。

とはいえ本当のところはいかがですか?

高橋

皆様のお好みで楽しんでいただければと思います。私も全てのフィルターを使っている訳ではありませんが、いくつかお気に入りのフィルターがあり、それを使って写真を加工して楽しむことがあります。そしてそれをスマホに取り込んでインスタにアップして、「いいね」の数が多いと、正直嬉しいんですよね(笑)

そうですね(笑)。そういった意味ではスマホや携帯電話で写真を撮ることが一般化した時代における、カメラのライバルとはなんだとお考えですか?

鯛中

スマートフォンが一般化し、皆さんがそれで日常的に写真を撮るようになって、正直私たちも危機感を感じました。もうカメラも終わりだ、これ以上新しいカメラを開発してどうなるんだという声が社内にあったのも事実です。でも今どうなっているかというと、スマホとカメラが連携する方にいっているんですね。最初はスマホで写真に触れた人が、もっといい絵が撮りたいとカメラを購入する方が増えていて、スマホからカメラにステップアップする流れが出来つつあります。ハードウェア自体も、スマホのアプリと連携するようになってきています。今やスマホがカメラにとってのライバルということはなくなっているのかなと思っています。

高橋

コンパクトカメラが登場し家族写真がたくさん撮られるようになった50年前と同じように、スマートフォンが登場したことにより写真を撮ることが身近になったといえると思います。今では一日に何十枚も写真を撮ることは当たり前になりました。一方、私が子どもの頃はフィルムが高価なものでしたから、現像してみると海水浴の写真とクリスマスの写真が同じフィルムの中にあるなんてことはざらにあったんです。今の時代、よりよい写真を撮りたいというニーズは確実に増えていて、こだわる方はデジタルのOM-Dで写真を撮りながら、昔のフィルム時代のOMでフィルムも使って写真を撮る方もいると聞きます。

写真にとってはいい時代であるということですね?

高橋

はい。ウェブやアプリなどで写真を楽しむ場も増え、写真を楽しむ方の裾野は確実に広がったと思います。スマホで写真を撮ることが当たり前になって、むしろ写真文化が広がっていることを実感しています。

オリンパス技術開発部門 画像システム開発本部 デザインセンター

右:センター長 高橋純氏
左:商品デザイングループ グループリーダー 鯛中大輔氏

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