102017

Special #20

新しい物語としてのお菓子

土谷みお氏(cinecaディレクター)インタビュー

Photography & Text : 加藤 孝司

映画からインスピレーションを得たお菓子で人気のcineca(チネカ)。
想像力に溢れた美味しいお菓子をつくるのは、コンフェクショナリーアーティストの土谷みおさん。
新しいけど、どこか懐かしさを感じる、cinecaのお菓子の秘密について、先日出来たばかりの土谷さんのお店「四月」で伺いました。

cinecaをはじめたころ

名前の由来を教えてください。

シネマとお菓子を組み合わせた造語です。ドメインが.siなので、チネカシと読めるようにしました。

名前もお菓子みたいなイメージですね。

コンセプトがわかりやすいのが一番かなと思いました。

お菓子を作りはじめたのはいつですか?

子どもの頃からしていたのですが、中学生の時に部活でお菓子作りをしてから、自分でも自覚するようになりました。とにかく食べることが大好きで(笑)。大学では建築、ランドスケープを学び、社会人になってからはグラフィックなど、デザインの仕事をしていたのですが、何をすれば自分が一番表現できるんだろうと考えていました。それでふとお菓子作りが好きだったなあと思い出して、お菓子と自分の表現したいことを結びつけたらどうなるだろう?とそれを自分でもみてみたくなりました。それで会社を辞めてフリーランスになると同時にお菓子の学校に通いはじめました。学校に通っているときに、知り合いからお仕事をいただきcinecaがスタートしました。

昔から思いついたり目標立てるとやってみたくて仕方がない性格で…かなりの有言実行人間なんです。何事も始めてみないとなにもみえないので、みえてから初めてその先を考えます。

cinecaをはじめたのは何年ですか?

2012年2月22日です。最初のお菓子がilove.catという猫のイベントのためのお菓子だったので、ニャンニャンニャンの猫の日ですね。

子どものころからなんとなく思い描いていた自分というイメージが、そこで動きはじめたのですね。

そうかもしれません。子どもの頃から自分は何か人と違うかも、という認識がありました。そんなこともあり、美大に行ったこともそうですが、自分探しをしてきました。でも、自分の脳で考えていることと実際に手で出来ることの限界を感じ、どんな仕事をしてもいつも違和感を持っていました。お菓子作りをはじめてからは、これが答えかはわかりませんが、その距離が縮まりました。お菓子を通じて昔よりは自分のことを人に伝えられるようにはなったとは思います。


映画のストーリーと結びついたお菓子

一つ一つのお菓子は映画のストーリーとの結びつきがあるそうですね。

映画をみて、自己解釈することが好きで、それとお菓子を結びつけてcinecaのお菓子が生まれています。とにかく本当にひどい映画漬けで…。昔は映画をみていると現実と非現実の間を揺れ動いている感覚が強かったです。あるとき、映画をみる時間が自分の時間の多くを支配している。それはもったいないことだなと思ったことがはじまりでした。

一番最初に作ったお菓子は猫のごはん、通称カリカリをモチーフとした「kalikali」ですよね?

はい。これは「メルシィ!人生」というフランス映画をモチーフにした、キャットフードに見立てた一粒一センチほどのクッキーです。

パッケージもみおさんのデザインですよね?

パッケージとロゴも自分でデザインしています。今のkalikaliのパッケージには猫の全身の姿が切り抜かれていますが、最初は猫の顔の形に自分で切り抜いていました。小さなクッキーを作ることは、手作りでは大変な作業で…。最初は小さな型で抜いていました。でも、ひとつひとつがものすごく小さいので、抜いても抜いてもやっとひと袋分?という感じで、今はオリジナルの道具をつかって少し改善されましたが、まだ改善点を多くかかえるお菓子のひとつです。

みおさんのお菓子作りの基礎となっているものはどのようなお菓子ですか?

ひとつ決まって基礎となるようなものがあるわけではないのですが、子どものころからお菓子が大好きで、食べたお菓子、見たお菓子の記憶は強く残っています。なかでも駄菓子が好きでした。大人が大真面目にふざけて作っているような駄菓子の感覚が好きで、いつもわくわくしたことを覚えています。もしかしたらその駄菓子の記憶が根源としてあるのかもしれません。

cinecaのお菓子を食べた人が、その映画を知らなくてもどこか懐かしいと感じるのは、そんな子どもの頃に誰もが一度は食べた駄菓子と繋がっているからかもしれませんね。

そういった意味では日本のお菓子って独特な歴史があるような気がしています。ヨーロッパには伝統菓子の歴史がありますが、日本にも昔から続いている和菓子というものがある一方で、今のお菓子は日本が戦争で負けて西洋の菓子文化が入ってきて、憧れとともに強く影響を受けているのかなあとか。ほかの日本の食に関してもそうだと思うのですが、外から入ってきた文化を日本人の感覚でアレンジして、「洋菓子」を「お菓子」に変えてオリジナルで作ってきたものが、日本のお菓子だと思うんです。それが日本の食の豊かさにも繋がっていると思っています。そんなもののひとつとしてのお菓子が私はものすごく好きなんです。そこには日本人の思考の豊かさがあって、私はそれを大切にしたいと思っています。私にとってお菓子を作ることは、洋菓子や和菓子を作っている感覚もパティシエである感覚もなくて、純粋にみんなが好きな「お菓子」を作りたいという気持ちが強いです。

お菓子の作り手として、駄菓子という視点はcinecaならではのひとつのあり方だと思いました。

まちには駄菓子屋さんがあったり、日本人であれば多くの人に馴染みがある駄菓子って日本独自の文化のひとつだと思います。それはある意味型破りな文化。cinecaのお菓子の作り方も型にはまるものはないと思います。洋菓子にはそのお菓子にとって、大切なレシピのベースがあって、一人ひとりのパティシエにとっては、そこからどれだけ自分の味を出すことが出来るかが戦いのような世界があると思うんです。ですが、私のお菓子は普通に美味しければいいと思っていて、“おいしい”の感覚は人それぞれですしね。そこからどれだけ人に驚いてもらえるか、普段もてない感覚を想起してもらえるかを大切にお菓子づくりをしています。ルールに縛られたくないというというか、たとえばフランス菓子や郷土菓子というとアレンジの幅が限定されますが、お菓子といえば表現の幅がものすごく広がります。そういった意味では、お菓子といえるものの中での戦い、というところで私はお菓子作りをしています。


お店「四月」について

お菓子のパッケージはどのような思いでデザインしているのですか?

そのお菓子のことが一番よい形で表現できるパッケージを作りたいとのぞんでいます。そもそもcinecaのお菓子には、それぞれひとつの映画があって、自分がその映画の監督になったつもりで、新しい世界をつくるような気持ちでお菓子作りをしています。だからパッケージまで含めてお菓子だと考えています。
子どものものではありますが、駄菓子には見立ての要素が強くはいっていると思っています。和菓子には森羅万象、この世界のさまざまな現象や風景をお菓子に落とし込んできた歴史があって、それを分かりやすくしたのが駄菓子だと私は勝手に解釈しています。西洋菓子のように肩に力の入りすぎていない、自然と向かい合うようなその姿勢が理想であり、cinecaのお菓子作りにおいても自分の中にある「見立て」の感覚を大切に、製法も含めて、出来る限り自然な方法で仕上げられるように作りたいという思いが柱としてあります。

それはお菓子のどんなところに現れていますか?

たとば、「潜水服は蝶の夢を見る」という映画からインスピレーションを受けている「a piece of(アピースオブ)」という石ころのかたちをしたお菓子があるのですが、これは石と似た素材を考えて作ったお菓子です。もし石を食べたとしたら、石は砂の集積だから、ジャリッとした食感なのかなと想像しました。それで食べると口の中でほろっと溶けて、そんな感覚をもたらしてくれるラムネ菓子にしました。
花の入った透明なキャンディ「herbarium(ハーバリウム)」は、「シルビアのいる街で」という映画にインスピレーションを受けて生まれたお菓子です。主人公がカフェのテラス席に座っている時に、ガラス越しに昔出会ったシルビアに良く似た人をみかけるというシーンがあって、そこから彼女をずーっと追いかけるという映画です。その一瞬の情景が物語の始まりのような気がして、主人公がガラス越しに見たその景色を切り取りたいと思いました。女性は花に例えられることがありますが、そのシーンや、主人公の男性の記憶の中にいる彼女を再現したのがこのお菓子です。

cinecaのショップ「四月」について教えてください。

昨年の夏、アトリエを浅草に引っ越してきました。そのとき、アトリエに併設する形で小さなショップスペースも作りました。これまで卸しやイベントで販売してきたのですが、cineca の旗艦店となるような場所を持てたらと考えていました。もしお店を持つときが来たら、自分を忘れないためのおまじないのような名前を付けたいという思いもありました。そこで、私にとって最も大切な映画の一つ、オタール・イオセリアーニ監督の長編処女作「四月」を。映画「四月」は監督の“はじめて”の長編作品というだけでなく、主人公たちの“初心”のシンプルさや美しさ、窓を通して描かれる景色の面白さが言葉なく描かれます。この作品をみるたびに静かな熱い思いが込み上げる。その思いをたまに思い出したくて名前を拝借しました。

ショップの内装はデザイナーの野本哲平くんが手がけていますね。

はい。普通お菓子屋さんは、棚やケースにいろんなお菓子が一緒になって陳列されていると思うのですが、cinecaのお菓子はそれぞれの世界を持つので、世界をうまく隔てつつ、ひとつひとつを丁寧に見せてあげたいと思っていました。そういったことを含め野本さんに相談したところ、昔から建築などの要素で使われているアーチ状の什器の提案があり、それを窓のように配置するという案が出てきました。それが私にはひとつの劇場のようにも見えて、これだ、と思いました。野本さん自身も「隔てる」という言葉からの形とコンセプトへの移行がスムーズだったようで、二人の感覚がうまく重なることができたアウトプットなのではないかと思います。

窓であり劇場。どこにもない素敵な空間に仕上がりましたね。

ありがとうございます。私自身、言葉でのコミュニケーションがヘタな部分が昔からあって、自分のことをうまく人に伝えることができないもどかしさを感じて生きてきました。ですがお菓子作りをはじめてからは、自分が語らずともお菓子が語ってくれる部分があったり、その問題が少しずつ解消されていきました。私にとってお菓子が世界との窓がわりになってくれていたんです。そういった思いまでもこの棚が伝えてくれているような気がしています。

新作お菓子のリリース予定がありましたら教えてください。

10月末に「NUDE」という新作を発表します。今年の頭から考えていて、最近やっとパッケージまでできました。松陰神社前にある本屋さんでのイベントでプレお披露目をして、10月のアトリエオープン(10月29日)の時に正式にお披露目販売をします。ぜひお店でお菓子を手にとって、味わっていただけたら嬉しいです。

土谷みお

cineca(チネカ)ディレクター。多摩美術大学卒業後、デザイナーに。2012年、映画にインスピレーションを得たお菓子を作るcinecaを立ち上げる。ブランドのディレクション、デザイン、制作を手がける。2017年、cinecaのショップ「四月」を東京浅草にオープン(東京都台東区浅草4-2-7)。月に1日、不定期でオープンしている。ほか、卸しやイベント参加も多数(オープン日はHPもしくはSNSで随時公開)。

加藤 孝司
加藤 孝司
加藤孝司/かとう たかし
デザインジャーナリスト。東京は浅草生まれ。デザイン、クラフト、アートなどを横断的に探求、執筆。雑誌やウェブなどへの寄稿をはじめ、2005年よりはじめたweblog『FORM_story of design』では、デザイン、建築、映画や哲学など、独自の視点から幅広く論考中。休日は愛猫ジャスパーと過ごすことを楽しみとしている。

Related