062018

Special #28

特集 70cm
床座の生活とピクニックのしつらえに、これからの暮らしを考える。

Photography & Text : 加藤 孝司

日本人が慣れ親しんできた床座の暮らし。

70mの床座の暮らしからみえる景色を考えるテキスト第二弾のテーマは「ピクニック」。
暮らしがいかに欧米化しようとも、寛いだり、リラックスするために、
私たちはついつい床に座ったり、寝転がることがある。
今回はそんな床座の生活における70cmから見えてくる風景を、ピクニックを例に考えてみたい。

心地よさと開放感もたらしてくれるもの

ピクニックと70cmの床座の暮らしは一見相入れないようにも見えるが、実際に屋外でのピクニックをしてみると、これが大いに関係があることを発見した。

時は初夏のやわらかな陽射しと風が心地よいうららかな休日。友人たちと清澄白河の公園でピクニックをしたときのこと。爽やかな木陰をつくる常緑樹のもと、雑草の上にレジャーシートを敷き、思い思い持ち寄った食べ物やお酒で宴を催した。

レジャーシートの上に座ってまず感じるのは、なんともいえない心地よさ、そして開放感。公園という壁のない屋外空間であることもそうだが、地面に座っていること自体に自由を感じる。

シロツメクサ、クローバー、オオバコ、ドクダミ、タンポポ、ハコベを間近に眺め、そよ風を肌に受ける。木々や植物、土と近い自然と一体になっている感覚はもちろん、立っているときと比べて視点が低くなったことで、空間がのびのびと感じられる。

 

視点の高さの変化だけでなく、カメラのレンズのように視点のズームイン、ズームアウトで景色の見え方も違ってくる。地面の高さでみる公園の景色はもちろん、公園の外の舗道を歩く道行く人々の姿、自転車に乗っている人、車の往来。公園のうねやボール遊びする子供たちさえもが、目を細めれば小高い丘、巨人のように見えてくる。目線を低くするだけで、そんな普段見慣れたものまでもが、まったく新しいものに見えてくるから不思議だ。


身の回りを好きなもので満たすこと

ピクニックをしながら、ここにモバイル的な存在の持ち運びが楽で、使い勝手のいい家具やツールがあったらいいなと思った。レジャーシートの上でも場所をとらないコンパクトなサイズで、持ちやすい重量、そして寛いだ雰囲気を壊さない程度にセンスがよくて、機能も見た目も大げさではないもの。これらにあてはまる要素は、日本人が昔から慣れ親しんでいる床座の生活スタイルや、日本のコンパクトな住環境にあったらいいものと、ぴったりとあてはまる。

 

普段は椅子に座って生活をしている空間でも、床に座ることで、公園の芝生の上にレジャーシートを敷いてピクニックをするのと同じ感覚を味わうことができるのではないか?身の回りをお気に入りの家具で整え、丁寧に料理をつくり、日々を穏やかに過ごすことと同じように、こんな気づきも毎日の暮らしの豊かさという価値の更新に繋がっている。

そして、過密化し狭小化が進む都市における住環境は、広さという点では決して豊かではない。そんな暮らしにおけるインテリアもコンパクトなものが求められているいま、70cmからの視点に基づいたデザインは日本のローカルでの暮らしはもちろん、世界中の人々にとっての都市での暮らしで求められているものともいえそうだ。

 

部屋を背の高い家具で揃えるよりも、低いもので揃えたほうが空間をより広く感じられるように、同じ空間でも、かがんだり、床に座って自分の目線をあえて低くすることで、空間を広く感じることができる。その視点の変化とともに、モノの見方や、振る舞い、所作までもが変わってくる。


その先にある豊かな暮らしのために

日本人が昔から慣れ親しんできた床座の生活。ちゃぶ台を囲みご飯を食べ、畳の上に寝そべって本を読んだりテレビをみたり。私たちは古来、床を床として使うのみならず、テーブルや寝床、作業台にあたかも見立て、自由に使ってきた。テーブルを置けばダイニングやリビングに、布団を敷けば寝室に、作業台を置けば仕事場というように、モノを置くことで空間の用途が立ち上がってくる。ピクニックも公園のなかの好きな場所にレジャーシートを敷けば、そこがその人にとってのリビングやダイニングになる。西洋的なものとは異なる、東洋的なもの、そのようなフレキシブルさをもったものが日本人にとっての床なのだ。

 

そこで使う家具も床での生活を基準に考えられ、しつらえられてきた。同じ床座でも、高低差をつけることで身分の優劣をつけたり、畳や板間、土間など素材を変えることで同じひとつ屋根の下でありながら、暮らす場所、働く場所、モノをめでる場所など、その場所の意味を遊び心たっぷりに、たくみに読み替えてきたのが日本人の暮らしだ。

スマホ一つで、見ること、読むこと、話すこと、出会うこと、といったコミュニケーションが成立する現代、私たちの暮らしは自分たちが思う以上にミニマルになりつつある。70cmとは、古きよき時代の暮らしを懐かしみ、ときに空間にゆとりをもたらす床に座る生活を単に提唱するものではない。日本人のDNAに染みついた床に座るというふるまいを、あらためてデザインの観点から捉え直し哲学することで、今あるものに新たな価値付けをすることであり、暮らしのなかにあるモノやコトを、これまでとは別のものさしを使い見つめ直すこと。そうすることで、その先にあるもうひとつの豊かな暮らしのヒントが見つかるのではないだろうか。


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加藤 孝司
加藤 孝司
加藤孝司/かとう たかし
デザインジャーナリスト。東京は浅草生まれ。デザイン、クラフト、アートなどを横断的に探求、執筆。雑誌やウェブなどへの寄稿をはじめ、2005年よりはじめたweblog『FORM_story of design』では、デザイン、建築、映画や哲学など、独自の視点から幅広く論考中。休日は愛猫ジャスパーと過ごすことを楽しみとしている。

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