062017

Special #18

新しさの意味を問いかけるimi-shinについて

text & photography : 加藤 孝司

「新しいことだけがNEWではない。続いていること、スタンダードであることには『意味』がある。」をコンセプトに、展開してきた「意味>新」。

今ご覧になっていただいているウェブサイトは、そのプロジェクトをさらにコンセプチュアルに展開するためのウェブサイトである。

 

まずは、2016年にインタリアライフスタイル展で行った「意味>新」展について振り返ってみたい。

 

特設展示サイトはこちら

数々の新作がカラフルに展示される展示会において、歴代のDUENDEコレクションを中心に、新しさとは何か、物の価値や意味を問いかける、マークスインターナショナルのエキシビション形式の展示会「意味>新」展が開催されたのは、2016年の6月1日から3日までの3日間開催されたインテリアライフスタイル展でのことであった。

これまでも同展への出展はあったものの、この時はインスタレーション形式での展示となり、コンセプトの新しさで会場では大きなインパクトを残すものになった。


「意味>新」がまず向き合ったのは、マークスインターナショナルの製品の中でも、長くつくられ継続して販売がされているもの(=愛されつづけているもの)をピックアップし、それに新しさだけではない価値を発見することだった。

ものを人とは違った側面から眺めること。そうすることで、世の中から見過ごされている「ものの本質的な意味」が、新しい価値として立ち上がってくる。それがひいては、新製品の「NEW」というシールではない、本当の新しさになりうる。そこには、新しいことが価値として重きを置かれる、現代の消費社会に対するひとつの問題提起でもある。

「意味>新」全体のディレクションを手掛けたのは、企業のブランディングなどを手がけるシンクタンク「デザインの研究所」である。そこでまず始めたのが、製品のリサーチと制作チームによる濃密なディスカッション。

展示会場突き当たりには、この時のアートディレクターを手掛けたノングリッド軍司匡寛氏による今回の「意味>新」のメインビジュアルが、壁一面をキャンバスに大きく展示された。書かれている言葉は、imi-shinのアイテムたちのリサーチから導きだされたキーワードだ。例えば右上の「猫一匹分」は、日本人のティッシュの年間消費量が平均的な猫の体重である4kgと一緒という、DUENDEのティッシュケース「STAND!」と「PICCOLA」のティッシュに関するリサーチを通じて導き出された言葉だった。

 

デザインの研究所のコンセプターである和田健司氏が着目したのが、プロダクトの「意味」を探し、それに新しい名前をつけることだった。それはあだ名、ニックネームともいうもので、仲の良い友達や、愛用の品に愛情を込めてニックネームをつけることに似ている。

例えばDUENDEのロングセラー商品「STAND!」は「立つんだティッシュ!」というように、およそプロダクトの名前とは思えないあだ名が付いたが、その名前ひとつをとってもティッシュの新しい概念を提示するものになった。

展示では、ティッシュボックスが立ち上がる過程をスローモーションのように表現した。これは映画「2001年宇宙の旅」におけるモノリスを参照している。そして「STAND!」の製造のプロセスを明らかにしたようなこの展示は、マークスのものづくりのプライドと姿勢を伝えるものでもあった。

 

会場の空間デザインは、通常の展示会での展示の仕方に比べて、一点一点の作品をその作品の新しいストーリーにもとづき丁寧に紹介することにこだわり、ストーリーテリングには、デザインジャーナリストの加藤孝司があたった。

人気のWECK(ウェック)の保存容器は工業製品の佇まいを感じさせる展示。ここでは、かわいらしさや愛らしさだけではない、工業製品がもつインダストリアルな反復の中にある美しさを表現した。ニックネームは「苺フォーククラフト」。苺はいわずと知れたウェックのトレードマーク。そしてフォーククラフトとは「民藝」の意味である。

 

1900年に製造が開始されたこの器は常温保存容器の元祖といってもいいもので、ドイツというデザイン、工業製品の先進国でうまれたインダストリアルなデザインである。この製品がうまれた数十年後に同じドイツにバウハウスが誕生しているのも興味深い。ガラス本来の色をした容器は、どこかバウハウスの理念のもと生まれたイエナガラスの製品を思わせる色、かたち、佇まいだ。また民藝の名もなき職人がつくり出す生活の道具、そして用がもたらす「用の美」にもつながっているように思う。

 

そしてドイツのおばあちゃんの家の食器棚には、今もウェックの保存容器があると言われているほどポピュラーなもの。おばあちゃんが使っているものを今の日本の若者は、かわいいと言って愛用している。いわば、現在のかわいいが、100年前のドイツのおばあちゃんの家の中に眠っているということだ。こんなところにも、新しさというものの「価値の更新」があるのではないだろうか。

展示台の上に椅子が展示されている。ふたつの肘掛けはよく見るとDUENDEの小さなサイドテーブル「Companion」である。

 

2008年に生まれたこの家具に実際のユーザーから寄せられた、ソファの横に置くと肘掛けにもちょうど良い、という声をもとに生まれた展示のアイデアだった。このニックネームは「肘・スティル」。全体のコンセプトを考えた和田健司氏は、このニックネームを思いついたときに、製品に新しい名前を与えるというこのアイデアはイケると思ったという。このようにユーザーからのリアルな声の蓄積があるのも単なる新製品では、決して持ちえない大きな価値と捉えている。

 

デザイナーや作り手が想像もしなかったような日用の中で更新されるアイデアのフィードバックも、すでにこのテーブルを使っている人、そしてこの製品とこれから新しく出会う誰かにとって新製品にはない「新しさ」ではないだろうか。

 

多くの物が人々の手に行き渡り、ものがありあまる今の時代。ユーザーもデザイナーも新製品という意味での新しさを本当に求めているのだろうか?その答えは明確には分からないが、新しいもの、愛され続けているもの(=スタンダード、定番)、そのふたつのものを人々は程よいバランスで求めているように思う。

展示物のスタイリングには、ファッション誌などのスタイリングでも活躍するスタイリストの田中美和子氏が担当。PICCOLAのティッシュの立ち上がり方にもこだわって展示した。

この時の展示でもたくさんの人が足をとめていたのが、家具にキャスターが付いたワゴン「PEPE」の展示だった。

 

このワゴンには「ホイールユートピア」というニックネームをつけた。この時に合わせて発表されたストーリーブックのなかでは、家具に「タイヤ」がつくことによる自由な感覚(=ユートピア感)をテキストで表現している。PEPEをトンネルにミニカーが走るハイウエイの展示は、そんな私たちの意図を汲み取った田中氏のスタイリング。

 

一列に並んでいるのは大小さまざまなタイヤがついたミニカー。キャンピングカーもあれば、リムジンカー、タクシー、パンダがのったトラックもある。ここには飛行機や電話、写真機やコンピュータが生まれたときの高揚感や開放感をともなった壮大なストーリーが、タイヤが付いたPEPEにも同じようにあてはまるのではないかという、おとぎ話のような仮説とともに提示された。

 

誰かの部屋の片隅に置かれたひとつの家具に、そんな「大きな物語」が秘められているとしたら。そんな物語が価値の更新につながり、そのことで「新しさ」や機能以外の別の価値が製品に生まれるかもしれない。そんなところにサスティナブルでロングライフな価値観、新製品に付けられる「NEW」というシールにはない本質的な新しさがあるのかもしれません。

今回、唯一の新作はDUENDEのサイドテーブル「TRE」も手がける建築家の芦沢啓治氏がデザインした「DUE」だ。これは大人と子供が兼用できるというコンセプトをもったラック。そこでついたあだ名は「グラデーションエイジ」。

 

子供は大人が言わなくても大人がやっていることを見ようみまねで真似をする。そんな子供と大人の境界線は曖昧である。僕らは気づいた時に、社会から大人だよといわれる。大人と子供の間には明確な境界線がある訳ではなく、そこにあるのは二色の水彩絵具が水に溶けて混ざり合うその境目にある曖昧なグラデーションなのかもしれない。そんなちょっと甘酸っぱい思いも想像させてくれるラックって他にはないと個人的には思っている。

会場で特に女性に人気だった展示作品が「TUBE&ROD」だった。天板と支柱の関係性がコップとストローに見立てられ、木製ロッドの支柱が水玉模様やグリッドに装飾されたまったく新しいイメージで展示された製品は、特に注目を集めていた。


先程の問に対する私たちの答えは、必ずしも新製品でなくても、新たな発見をもたらしてくれる要素や、時代や環境によって変わる「背景」があれば、既存の物であっても、その新しさは更新できるのではないか、というものだった。そしてそれは新たに発見された言葉やイメージ、グラフィックなどのビジュアルで具現化することができるかもしれない。そのことが新しさと同じようにそのものの価値の更新に繋がるのではないだろうか。論理的で、時に飛躍的な思考により、そのものがもつ「意味」が、世の中のユーザーやデザイナーが本当に求めている価値としての「新=NEW」に変わること。そんな刺激的な取り組みが「意味>新」だった。

そして、2017年6月より、そのコンセプトを受け継ぐ活動が、新たなメディアサイト「意味>新 imi-shin」として立ち上がった。執筆には加藤孝司、編集者の水島七恵氏、デザイナーの野本哲平氏、そしてゲストメンバーとして京都のLADERの橋本司氏が参加する。ここでは、「意味>新」展をつくる上で、そのきっかけとして考えた、物がもつ本当の価値や意味、そして「新しさ」の意味を、言葉やイメージ、そしてここに登場するゲストの仕事や言葉ととともに探っていく。これは物のかたちのデザインだけでは生まれえない、物がもつリアルな意味を探る、新しい試みなのである。

 

新しさというものに問いを投げかけ、愛され続けているものが持つ意味を探るマークスインターナショナルの取組みはさらに「深化」していく。今後の展開にもぜひ期待いただきたい。

加藤 孝司
加藤 孝司
加藤孝司/かとう たかし
デザインジャーナリスト。東京は浅草生まれ。デザイン、クラフト、アートなどを横断的に探求、執筆。雑誌やウェブなどへの寄稿をはじめ、2005年よりはじめたweblog『FORM_story of design』では、デザイン、建築、映画や哲学など、独自の視点から幅広く論考中。休日は愛猫ジャスパーと過ごすことを楽しみとしている。

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