022018

Special #23

アイデアが浮かぶとき vol.2

ピエール・ユイグ氏(現代美術家)インタビュー

Text : 加藤 孝司 Photography : 太宰府天満宮アートプログラムvol.10 ピエール・ユイグ「ソトタマシイ」/Dazaifu Tenmangu Art Program vol.10 Pierre Huyghe ‘EXOMIND’ Photo by Pierre Huyghe

太宰府天満宮千百余年の歴史に、現代美術家ピエール・ユイグ作の「庭」が新たに加わった。
太宰府天満宮は学問の神様として知られる福岡県太宰府にある神社。
年間800万人以上の参拝者が訪れることで知られ、本殿は小高い丘や森に囲まれ、境内には樹齢千年を超えるもの樹々が生い茂る。
太宰府天満宮アートプログラムは、世界的なアーティストが太宰府を訪れ作品を制作するプログラム。
記念すべき10回目の作家に選ばれたのは、フランス人現代美術家のピエール・ユイグ。
ユイグはこれまでも世界各地の美術展やミュージアムでスケールの大きな作品を発表し、いま最も注目される美術家の一人だ。
今回太宰府天満宮とのプロジェクトにおいては、「永遠の庭」をテーマに作品を構想。
太宰府天満宮の敷地内にある丘の上に自然と人工が調和した神秘的な庭を出現させた。
コンクリートの彫像、蜜蜂、蜂の巣、橙(だいだい)と飛梅の子孫、土、石、三毛猫、蟻、モネの池の睡蓮の子孫、アホロートル(ウーパールーパー)。東と西、古と今、とこしえ、ハイテク、ローテク、様々な要素を内包した小高い丘の頂に作り上げられた、濃密で神秘的な空間だ。
蜂の巣に覆われた彫像の頭は、まさにこの世界を取り囲む環境である「自然界」の縮図。
土、樹々、植物といったここにあるさまざまな物たちを蜜蜂が媒介、取り結び創り出す、小さなエコシステムの象徴である。
赤い土の地肌が現れた小高い丘にあるとこしえに続く「庭」には、春になれば、植物が芽吹き、また違う景色を見せてくれるだろう。

来日中のピエール・ユイグ氏に、今回の作品について話を伺うことができた。

―太宰府天満宮との今回のプロジェクトのきっかけを教えてください。

 

タロウナスの那須太郎さんが太宰府天満宮に連れてきてくれたことがきっかけでした。そして太宰府天満宮のためのパーマネント作品をつくって欲しいというご相談を西高辻信宏権宮司からいただきました。
私はつねづね自然がもつ「エコシステム」というものに興味を持っていました。「神道」自体が自然との関わりの深い哲学であると考えていましたので、そのような背景にも興味があり太宰府天満宮とのプロジェクトが実現しました。

 

―今回のアートワークはユイグさんにとって初の恒久展示作品になりますね。
はい。そうです。これまでの作品は展覧会というかたちで展示、制作されたものということもあり、1ヶ月や2ヶ月でその場所からは消滅してしまう訳ですが、今回は違います。ここ太宰府天満宮で私がやってみたかったのは、より複雑な生態系という環境の中で世代を越えて生まれてくるものをかたちにすることでした。たとえば蜜蜂や猫、アホロートルが、この場所にどんな生態系をつくっていくのか?植物がどんなふうに成長していくのか、長い年月の中でうつろい、変わっていくものへの興味がもとになっています。

 

―それは美術館やギャラリーとは異なり、永遠に変わらない神社という場所だからこそ実現可能であったと。
はい。なるべく多くの方にみていただきたいという思いがありますので、神社であれば永く続いていくと同時にそれが可能になる適切な場所だと思いました。

 

―今回の作品の中でも蜂の巣の頭部をもった彫像が登場しますが、たびたびユイグさんの作品に登場する仮面もそうですが、顔を覆い隠すことにはどのような意味がありますか?

マスクはこれまでの作品でも用いているお気に入りのモチーフなのですが、作品に顕著にあらわれているように、私の作品においてマスクは人間の外面だけでなく、人間の内面を覆い隠すものの象徴として用いています。
蜂の巣の頭部を持った作品も同様で、多様な自然の生態系という、複雑な要素をもつ庭の中に佇んでいながら、唯一外からの影響からのがれ、自分の思考の中にとどまっているのです。ですが、頭部はたくさんのものの集合体でできています。それは多くの情報に意図するしないに関わらずさらされている私たちの象徴でもあるのです。それはこの彫像を取り巻く状況も同様で、池に浮かんでいるモネの池から移植してきた睡蓮や、日本では代々続いていくという意味もある橙、太宰府天満宮の象徴のひとつである「飛梅」の穂木を接ぎ木した梅の木など、この庭にはたくさんの要素が組み込まれています。それらは無機的ではない、生きているもの、そして象徴的なものたちです。
みなさんも感じておられることだと思うのですが、実は顔や表情を見ただけでは、その人が心の中で何を考えているかまでは知ることができませんし、その人の内面に近づくことは難しいと思います。この作品で彼女は一人であの場所に佇んでいます。しかもこの作品の中心にはいません。多様なもののひとつの側面として位置付けています。

 

―ユイグさんの作品には、映像もオブジェクトも同様に最新のテクノロジーも用いられますが、プリミティブな要素も多く用いられているのが印象に残ります。今回の作品は極めてプリミティブな要素が強いと思いますが、自然とテクノロジーの関係についてはどのようにお考えですか?
私自身は最新のテクノロジーを用いた作品と、太宰府天満宮における自然をモチーフにした今回のような作品が、対極にあるとは考えていません。私が思いつく新しいアイデアをかたちにする段階で、この状況や太宰府天満宮という背景を知ることを通じて、この作品にはこれらプリミティブな要素が適していると考えたのです。ですのでテクノロジーという意味ではこの作品では、蜂たちのテクノロジーをつかわせてもらいました(笑)。文化といえば人間のものだと思われますが、動物にだってそのようなものはあります。動物がつくるものは、身の回りで手に入る材料を違ったかたちに変容させて違うものを生み出していきます。それが彼らにとってのクラフトであり文化なのではないでしょうか。

 

―ユイグさんがご自身のアイデアが浮かぶ時とはどのような時ですか?
私の作品へのアイデアが思い浮かぶ要素はさまざまあるのですが、遺伝子的に私の中から無意識的に生まれるもの、あるいは経験によって加わっていくもの、それらが環境とも関わり合いながら変容して、私の心が生み出し形作っていくものだと考えています。ですので、私のアイデア、そして作品は、私の生活、私の人生そのものだと思っています。

 

―たとえばお子さんと遊んでいる時にアイデアが浮かんだりするのでしょうか?

娘と遊んでいるときもそうですね(笑)。私はもともと「エピジェネティクス」という、遺伝子と環境要因の関係を研究する遺伝子分野の学問領域にとても興味があります。娘と遊んでいるときにも私の遺伝子のどのような部分が、どのようにこの子に受け継がれているのだろうかと考えることがあり、その観察にインスピレーションを受けて、作品のアイデアが生まれることもあります。まだ幼い娘のことを観察しているだけでもさまざまインスピレーションが湧いてきます。

 

―日本のアニメにも影響を受けているとお聞きしました。

そうです。2012年にサンフランシスコ近代美術館で行った大きなプロジェクトである「No Ghost Just a Shell」では、日本のアニメ「GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊」から着想を得て作品をつくりました。それくらい、日本のアニメには大きな影響を受けています。宮崎駿の作品も大好きです。宮崎の作品は本当に美しいですね。「となりトトロ」には神道にも通じる精神を感じました。日本特有の精神性や自然を背景にした「美」をもつ日本のアニメは本当に大好きです。「猫バス」を生み出した日本人の創造力の豊かさを尊敬しているんです。

 

ピエール・ユイグ / Pierre HUYGHE

 
1962年フランス生まれ。現代美術家。
1990 年代からヴィデオ作品やインスタレーション作品などを発表し、2001年第49回ヴェニス・ビエンナーレの審査員賞、2002年ヒューゴ・ボス賞受賞。2013年、個展「Pierre Huyghe」をパリポンピドゥセンター他で開催。2017年、元アイススケート場の床を掘り起こし制作した「After ALife Ahead」が公開。


太宰府天満宮アートプログラムvol.10 ピエール・ユイグ「ソトタマシイ」2017年11月26日より公開中。土曜日曜の11時から15時まで公開予定。

詳しくは特設Facebookページにて、あるいは太宰府天満宮文化研究所(092-922-8551 9:00〜17:00)までお電話でお問い合わせください。


Pierre Huyghe portrait copy right Ola Rindal


 

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加藤 孝司
加藤 孝司
加藤孝司/かとう たかし
デザインジャーナリスト。東京は浅草生まれ。デザイン、クラフト、アートなどを横断的に探求、執筆。雑誌やウェブなどへの寄稿をはじめ、2005年よりはじめたweblog『FORM_story of design』では、デザイン、建築、映画や哲学など、独自の視点から幅広く論考中。休日は愛猫ジャスパーと過ごすことを楽しみとしている。

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