102015

Special #8

WECKを包んで贈る
HOW TO WRAP_主宰 山本 考志氏インタビュー

Photography & Text加藤 孝司

贈り物をすることが増えるこれからのシーズン。
お店で包装してもらうのもいいが、自分で選んだ包み紙で、
心のこもったラッピングをしてみたい。
包むことをテーマにしたブランド「HOW TO WRAP_」をご存知だろうか?
今回HOW TO WRAP_を主宰する山本考志氏に、
「包むこと」をテーマにしたブランドをはじめた経緯と、
HOW TO WRAP_の包装紙を使ったWECKを贈るシーンを提案してもらった。

“包む”ということについて。

なぜ、包むこと、包装紙をテーマにしたブランドを始めたのですか?

もともと紙のフォルムが持つ幾何学的な要素が好きでした。折り紙がその典型ですが、折った紙が生み出す直線と、数学的な原理に基づいて現れる”面”の形は、グラフィック的で簡素な美しさを持っています。包むことはその直線と面が織り成す立体造形だと感じ、デザイン的な側面から「包み」に興味を持ち始めました。
また紙についても、豊富な種類と独特の素材感、その光の反射の仕方、印刷などの加工により表情を変える点など無限の創造性をもった素材だと思っていて、その未知なる限りない魅力に惹かれていました。
包装によって紙と造形自体の魅力をさらに引き出せるのではと感じ、「包み」をテーマとしたブランドを始めました。

山本さんがデザインに興味をもったきっかけを教えてください。

学生時代にさかのぼりますが、モダンデザインの家具が好きで大学に通いながらインテリアショップで働いていました。卒業と同時に20世紀のミッドセンチュリー期のヴィンテージ家具を扱うショップで働き始めた頃は、周りの人たちの影響もあって、情報収集のために幅広い分野の古本や洋書をたくさん読みあさっていました。
当時は1920年代に全盛期を迎えたドイツの総合芸術の学校「バウハウス」の本が特に好きで、家具やプロダクトだけでなく、グラフィックや写真、彫刻、クラフトなど、産業と芸術の狭間であらゆる感性が相互に関わりあって生まれた数々のデザイン的背景にとても感銘を受けました。
包みに興味を持ち始めた時期もそんな幅広い分野の本を読みあさっていた頃でした。柳宗理監修の「花紋折り」と岡秀行の「日本の伝統パッケージ」(英語版タイトル 「HOW TO WRAP FIVE EGGS」)という2つの本との出会いがきっかけだったと思います。それぞれ「折る」と「包む」という日本の文化がテーマとなっていますが、いずれも伝統を越えた現代的なヴィジュアルとイメージが衝撃的でした。
ヴィンテージショップに勤めた後の10数年間は、モダンデザインからコンテンポラリーなデザインまで現行品を幅広く扱う企業にいて、新しい家具やプロダクトデザインに携わる仕事をしていました。
そこで働きながら習慣やライフスタイルにおけるデザインについてより深く考え始めるようになり、かねてから好きだった「折る」、「包む」にあらためて着目しながら、現代の生活に活きるデザインとして「ラッピング」をテーマにしたブランドをやり始めようと考えました。

そこにはどのような問題意識があったのでしょうか?

あらゆるモノや道具が身近になり、ライフスタイルはより豊かなものとなり始めている中で、人から人へと渡るギフトのバリエーションや、その贈るシチュエーションも多種多様なものへと移り変わりはじめているのではないかと思っていました。贈る人と贈られる人のそれぞれのもつ個性や感性、また贈る場面が様々ある様に、包装もまた多彩であると考え、包むことの価値を独自の観点で見つめデザインに特化したラッピングをテーマにいままでにないブランドを作りたかったのです。


モダンデザインとしての包装紙

HOW TO WRAP_はモダンデザインを背景にもった珍しいラッピングブランドだと思いますが、山本さんご自身モダンデザインのどのようなところから影響を受けていますか?

モダンデザインの一番の魅力は、それぞれの作品に背景とストーリーを持っていることだと思っています。デザイナーの個性や人柄も重要で、デザイナー自身のモノへの視点が伝わって来るような創造性を駆りたてるデザインに惹かれます。
特に日本のプロダクトデザイナーの第一人者でもある柳宗理の「眼」と「手」には影響を受けているとおもいます。柳さんのモノへの視点を知って、自分のみるあらゆる景色が変わったと感じています。
それとグラフィックデザイナーでもあり、日本のこけしや包みの収集家、研究家でもある岡秀行さんの視点も衝撃的でした。モノは見方によって、古いようにも新しいようにも捉えることができることを知りました。彼の収集した伝統的な包みのコレクションを集めた本「日本の伝統パッケージ」は、海外でも注目を集め、その背景にはイームズとともにアメリカを代表するデザイナーであるジョージ・ネルソンが深く関わっていて、英語版 「HOW TO WRAP FIVE EGGS」では序文も寄せています。HOW TO WRAP_というブランド名はここから名付けました。「背景をもった商品作り」ということを含め、モダンデザインはブランドの核にもなっていると思います。

HOW TO WRAP_の包装紙の特徴を教えてください。

HOW TO WRAP_の包装紙には、印刷方法や紙の選定、また製作の背景やデザインにそれぞれコンセプトをもっています。
そのコンセプトはただ紙の平面に現れるものではなく、例えば包みが立体になったときに面白く見えたり、実際に贈るシチュエーションに活きるデザインだったりします。
もともと包装紙は表層を彩り、華やかにするものですが、これらの包装紙は包むものとぶつかり合わないように、淡い色味や控えめなパターンで贈るものを引き立てるようなデザインを心がけました。

包装紙の図案のモチーフはどんなところからインスピレーションを受けていますか?

主にモダンデザインから影響を受けています。スイスグラフィックや、バウハウス、北欧のテキスタイル、バックミンスター・フラーに代表されるような幾何学的なオブジェクトからもインスピレーションを受けています。
また海外のギフトにも目を向けていて、ノートのページをそのままラッピングペーパーとして使っているシーンを見たことがあり、「GRAPH」というシリーズの包装紙は、ノートの方眼パターンをそのままラッピングペーパーとして作りました。

包装紙の図案それぞれの解説をお願いします。

「GEOMETRY」は、クラフト紙の素材感とドライな色味が特徴の紙に、ジオメトリックなグラフィックを極限の細さでシルクプリントした包装紙で、職人の手刷りにより1枚1枚丁寧に印刷されています。
「GRID」は、白に近いグレーのカラークラフト紙に細いグリッドパターンを施した包装紙です。包むことでグリッドが平面から立体となり、包む方向、包むものの形によってその表情を変えるコンセプトを持っています。
「GRAPH」は文字通り方眼紙などを専門に扱う単色オフセット印刷機で、上質紙とクラフト紙にノートで使われるような罫線を施したシリーズです。アルファベット罫線や、図面やグラフのためのグリットなどの規則的な美しい配列は、包むことで立体をもち、規則的なパターンをさらに際立たせます。また、ラッピングペーパーに直接メッセージやイラストを書いたり、マスキングテープでアレンジすることもできます。
「TERRAZZO」は、セメントや樹脂に大理石などの粉砕した石をまぜ、表面を研磨して作り上げられる人造石を図案化しています。砕石の表情をそのままクラフト紙にプリントした包装紙です。

HOW TO WRAP_として、これまでどのようなお仕事をしていますか?

友人のお店でもある北欧モダンデザインをメインに扱う「ELEPHANT」で昨年開催された、ナタリー・ラーデンマキ展では、オリジナルラッピングペーパーを用いたインスタレーションを行いました。またデザイン書籍と雑貨を扱うショップでクリスマス限定ラッピングサービスを行ったり、企業のノヴェルティを包むサービスを承ったりもしています。また包装紙ではありませんが、グラノーラの限定パッケージのお仕事も以前にやらせていただきました。今後はラッピングやライフワークとしている花紋折りのワークショップも開催できればと考えています。


”WECKを包む”

今回の”WECKを包む”というお題に対して、試みたことを教えてください。

WECKは円柱状で簡単には包めない形状をしていて、さらにガラスは割れやすい素材でもあるので正直難しいお題でした。
当初はこの形状に対して、いかに綺麗に包むかを考えていたのですが、WECKの特性を考えていくうちに、今回は気軽に包めて汎用性もある紙袋をラッピングペーパーで作ることに決めました。慣れれば1枚あたり5分ほどで作ることができます。
自作の紙袋は中に入れるものに対してサイズを自由に決められるので、WECKのようなサイズバリエーションの多いものを包むのには最適だと思いました。
今回ギフトのシチュエーションは自家製のパテやサラダ、ソースなどをお裾分けで友人に贈るという設定です。食材にあうコーヒー豆を贈ってみたり、作ったもののレシピを添えて贈るアレンジをしてみました。実際にこの撮影の後に友人に贈ったのですが、レシピはとくに喜ばれました(笑)。

WECKのようなキッチンツールを「包むこと」、あるいは日用品を贈るということにおける、ラッピングという視点からのアドバイスを教えてください。

普段使いをする日用品やデザイングッズは、自身で包むときにあまり大層な包みにならないほうが、気軽さもあっていいと思います。
生活の中でごく身近なものなので相手がどのようなシーンやシチュエーションで使うかを考えるとギフトの組み合わせやアレンジが面白くなると思います。また例えば引き出物でもいろんなお気に入りのお店から集めて贈るときには、その贈り物にあったパターンの包装紙を見つけて、それぞれにちょっとしたアレンジを加えるだけでイメージがまとまりギフトに統一感がでたりするのでオススメです。

包むということ全般において、その楽しみ方についてメッセージをお願いします。

HOW TO WRAP_は、贈る人と贈られる人のそれぞれのもつ個性や感性、また贈る場面が様々ある様に、包装もまた多彩であると考え、ラッピングをテーマにいままでにないブランドとしてはじめました。
日本における贈り物は、お祝いなどの特別な品、あるいは高級品という認識が高く、ラッピング包装を希望する人のほとんどがその商品を購入したブランドショップや販売店でギフト用ラッピングを利用するのが一般的です。また海外と比べても気軽にギフトを贈る習慣は少ないように見えました。
ですが近年、ライフスタイルへの意識の高まりもあって、あらゆるモノや道具が身近になり、日常生活はより豊かなものになりました。人から人へと渡るギフトのバリエーションや、その贈るシチュエーションも多種多様なものへと移り変わりはじめています。
コーヒーをハンドドリップで淹れる文化や、住空間のリノベーションなど、とくにDIYやハンドメイドといったことに目を向けられる機会も増えてきました。ぜひギフトにも個性やオリジナリティを独自のアレンジで加えてみてはいかがでしょうか。


WECKで贈る”レシピ”

<青じそのジェノベーゼ>
フードプロセッサーに青じそ(50枚)、ニンニク(1/2)、アンチョビ(1枚)、ケッパー(20g)、オリーブオイル、塩を入れてかきまぜる。

<くるみ入りレバーパテ>
A.レバー300gを下処理後、茹でて冷ましておく。
B.みじん切りの玉ねぎ(1/2)をオリーブオイルで炒めて白ワインを加えて、アルコールをとばす。
フードプロセッサーにAとBとクリームチーズ(50g)、塩、胡椒を加えてかき混ぜる。
くだいたくるみを加えてさらにかきまぜて、冷蔵庫で冷やして完成。

<カボチャのサラダ>
1.カボチャ(1/8)とタマゴ1個とインゲンを適量茹でる。
2.茹でたカボチャとタマゴをサッくり混ぜ、クリームチーズ(25g)、マヨネーズ(大さじ2)、塩とインゲン、くだいたカボチャの種、ピンクペッパーを加えて混ぜる。
3.仕上げにくだいたカボチャの種をトッピングして出来上がり。

HOW TO WRAP_

現代に適した”包み方”を考えるギフトのためのブランド。包むことの新しい価値観を創造し、新しい包装のかたちを提案している。

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