052016

Special #11

路地裏からはじまる豊かな営み

Bistro ROJIURA、PATH主宰 原 太一氏

Interview & Text : 水島 七恵 Photography : 井上 美野

街の喧噪と距離を置くように
メインストリートから一歩入り込んでみると、
そこは見たことのない風景が広がっている。
いつの時代も路地裏という文化は、人をワクワクさせるのだ。
渋谷もまたその期待に応えるかのように
何度でも通いたくなる店が、路地裏に佇んでいた。

フライドポテトの行進

フライドポテト、本当に美味しいです。

ありがとうございます。フライドポテトはBISTRO ROJIURAオープン当時からの定番メニューで、僕の好きなミモレットチーズとクミンパウダーをかけて作っています。このフライドポテト、実はROJIURAの縮図だと思っているんです。

縮図とはどういう意味ですか?

ROJIURAは、フレンチをベースとしたビストロですが、一般的にフレンチと聞くと、ちょっと敷居が高く感じてしまうと思うんです。でも僕はそんなフレンチをカジュアルに日常のなかで親しんで欲しい。そう思ってROJIURAを始めたんですが、まさにフライドポテトはそのための入り口になるメニューにしたかったんです。というのもフライドポテトって一見ジャンクな料理じゃないですか。でも例えば22ヶ月熟成させた上質なミモレットチーズとクミンを合わせると、また違った価値観で食べてもらえる。それにワインとの相性もすごく良いので、結果的にワインに興味を持ってくれる方も増えていく。そうやっていつの間にかフレンチを好きになってもらえたらいいなあと。だから僕にとってこのフライドポテトは、ROJIURAメニューのなかでもすごく思い入れのある一品なんです。

原さんがROJIURAをはじめたきっかけを教えてください。

もともと10代の頃から独立願望がありました。それに食べるのが大好きだったので、飲食店をやろうと思うことも自然な流れではありました。そしてもし自分がお店をやるなら、大きな通り沿いにある路面店ではなく、小さな道を1本入ったところにひっそりあるようなお店をやりたかった。でもまさか実際渋谷のこんなに奥まった場所でお店をやることになるとは思ってもみませんでしたけど(笑)。

今回の取材をきっかけに、WECKを使った料理を提案してくれた原さん。「ROJIURAの定番でもある鳥白レバーのペースト700円をWECKバージョンで。生姜を添えてみました。もう1品は、砂肝のコンフィを。初めて作ってみたのですが、とても美味しくできたのでお店の定番にしようかな(笑)。WECKがなければ思いつかなかったメニューです。WECK、すごく使い勝手が良さそうですね。ちょっとこれをきっかけに使ってみたいと思います」。

渋谷という街に対するこだわりはあったんでしょうか?

渋谷は10代の頃からずっと馴染みのある街だったんです。当時、大好きだったレコードショップ、シスコがあるのも渋谷でしたし、何よりその頃の渋谷はカフェカルチャーの全盛期。街のいろんな場所にお洒落なカフェが点在していて、僕自身、そのカルチャーにすごく憧れを持っていました。それで大学に通いながら渋谷のカフェで働き出したんです。カフェでの日々は最高に楽しかったですね。食はもちろん、インテリア、アート、デザイン、音楽……。カフェという名の空間で生まれるカルチャーのすべてにたくさんの刺激を受けました。僕、小学生からずっとサッカーを続けていたんですよ。だから大学でもサッカーやりたいと思っていたのに、カフェで働くようになってからその道に進むのを辞めて。意外なほどあっさり終わってしまったサッカー人生には自分でもびっくりしましたけど、それぐらい他に夢中になれるものを見つけられたんでしょうね。と、そんな感じで渋谷はとても愛着のある街だったので、お店をやる上で自然と候補の街にはなっていました。

確かに90年代後半から2000年代前半までのカフェブームはすごかったですね。食も含めた新しいライフスタイルをカフェが提案し、その文化は若者を中心に浸透していきました。

だから僕自身も食というよりも、自分のお店を持つことに興味があったんです。でもお店がどんなに格好良くても、そこで出される料理が美味しくなければ、格好悪い。だったらちゃんとしたレストランでしっかり勉強して、一流の美味しい料理を提供できるようになりたいと。そう決めてからは、ちょっと背伸びしつつもいろんなレストランに行っては食べ歩きするようになりました。そんななかで最も自分が美味しいと思った料理が、フレンチのお店だったんです。それでまずはフレンチの世界で修業しようと決めて。基礎をしっかり身につければ、いくらでもカジュアルに落とし込むことができると思ったんです。


人生を楽しむために作る

原さんにとってシェフとは、料理とは、自分のお店を作るための、ひとつの手段のような感じだったんですね。

まさにそうですね。ひとつの手段、ひとつのツールという感覚でフレンチの修業に入ったので、すごく生意気に聞こえてしまうかもしれませんが、シェフにどんなに怒られてもどこか冷静で、それを俯瞰的に捉えている自分がいました。純粋に料理の道を目指したわけではなかったから。

面白いですね。でもいろんな考え方の持ち主がいる方が、どんな文化もきっとひらけていくと思うんです。

そうかもしれません。でもその一方で、日々尊敬するシェフが作る一流の料理に触れることで、だんだん自分自身、料理自体が面白くなっていって。結果、必死に勉強するようになって、いつしか自分がやりたいお店もカフェではなくビストロに変わっていきました。それでその後もいくつかのお店で働きながら、ようやく自分の料理が見えてきたかなあと思えた30歳で独立して、ROJIURAをオープンさせたんです。

念願だった自分のお店を手にしてみてどうでしたか?

最初は僕とホールスタッフふたりでお店を回していて、それこそ修業時代のミシェルトロワグロのような繊細なフレンチを目指したんです。でも、ROJIURAはトロワグロの環境とは違います。複数の一流シェフが総出で調理する環境にはROJIURAはない。僕一人でしたから。それで気づいたんです。お客様に自分はまず何を食べさせたいのか。それを一番に考えなければだめだと。手間をかけた美味しさの追求だけでは自己満足になってしまうと。それからはどんどん削ぎ落していく作業に入りました。そうやって盛りつけも含めてようやく自分らしい料理を提供できるようになったと思うのは、ここ1、2年ですね。

そうやって今のROJIURAスタイルが確立されていったのですね。原さんは今も毎日キッチンに立っているのでしょうか?

いえ、ROJIURAのオーナーシェフという立場に変わりはないのですが、今、キッチンはシェフの西くんに任せしています。僕と時期は重なっていないのですが、西くんも同じミシェルトロワグロで修業をしていた経験があります。その縁で西くんから僕に、「ROJIURAのように、カジュアルに落とし込んだフレンチを勉強したい」という希望をもらったので、シェフとして来てもらうことになったんです。西くんもゆくゆくは独立するときがくると思うので、それまではこのROJIURAでいろんなお客様に西くんの実力が認知されて欲しいなって願っています。僕が独立するときは、下っ端にも関わらずいきなり独立してすごく苦労したので、西くんにはそんな想いをして欲しくなくて。

原さんのこだわりが詰まったROJIURAという空間で、現在、ROJIURAのシェフとして現場を仕切る西さんと談笑する原さん(写真上段1、2枚目)。フライドポテトと同じくらい人気メニューが、フォワグラのテリーヌ(写真上段3枚目)。料理を盛りつける器や花瓶は、原さんの友人でもある作家、ガラス作家の山野アンダーソン陽子さんのオリジナルデザインによるもの(写真下段2枚目)。

スタッフ想いなんですね。

きれいごとに聞こえてしまうかもしれないんですけど、でも僕は本当にスタッフそれぞれが気持ち良く働いてもらうことをとにかく大事にしたいんです。そもそも僕が一番美しいと思うことって、人生そのものを楽しんでいくことなんです。としたときに、僕も含めてスタッフ全員が自分にとっての心地よいライフスタイルを手にして欲しいんです。例えばこれは基本的なことですが、店でも早朝から始まってそのまま夜通し働くことってやっぱり人としておかしいし、日頃から仕事だけじゃなくて、趣味や遊びに時間を割くことも大切だと思うんです。だからスタッフが休暇をちゃんと取れるお店にしたい。僕はそういう時間の過ごし方が、結果的に仕事の内容に繋がっていくことがたくさんあると思っているんです。

そんな原さん自身は休暇は取れていますか? というのもROJIURAに続き、今年の始めには代々木八幡に新しいお店PATHをオープンされてとっても忙しそうなイメージがあります。

大丈夫です、ちゃんと休むときは休んでいます(笑)。PATHもまた、自分にとって心地よいライフスタイルを提案したいという想いのもと、パティシエの後藤裕一と一緒に作ったお店です。朝、美味しいコーヒーとクロワッサンがあったら最高だと。ちょうどそんなことを考えていたとき、フランスのトロワグロでの修業から帰国した後藤に会って。で、彼もやりたいお店があって、聞けばそのイメージが自分とすごく近かったのですぐに意気投合して。例えば海外だと手前にバーカウンターがあってそこで軽く飲んだ後、奥の席ではちゃんとした食事もできる。そういう雰囲気のお店がいいなあって。あとはやっぱりモーニングがある店を。そこで後藤が作るクロワッサンがあったら最高じゃないかと。そうやって後藤と考えながらPATHは生まれました。

では原さんは今、PATHのキッチンに立っているんですか?

そうなんです。PATHはオープンして約半年ぐらい経ちますが、おかげさまでモーニングのお店という認知がとても広がっているので、これからの課題は、もう少し夜のお店であることも、ちゃんと知っていただけるようにしていきたいと思っています。

ROJIURAとPATH。ふたつのお店の経営しながらキッチンに立ち続けるのはとても大変だと思いますが、原さんは現場がとにかく好きな方なんですね。

はい、僕はずっと現場に立っていたい人です。なぜならそれが僕にとって一番気持ちよいライフスタイルだから。これはかなり先の話にはなりますが、実はもう一店舗だけ、作りたいお店があるんです。カウンターだけの小さいお店で、その名も仮で「目分量」(笑)。そこで僕は麻婆豆腐や生姜焼きなど素朴な家庭料理を作りたいなって。美味しいという着地点はしっかり持ちつつも、毎回、目分量で料理する居酒屋みたいなものができたらと。美味しさの振り幅が広い料理を提供するお店、楽しくないですか? 少しでも来てくださるお客様の日々が充実するように、もちろん僕たち自身も。そのための料理でありお店づくりをこれからもしていきたいです。

原 太一

コムダビチュード、ミシェルトロワグロなどで修業後、20011年に渋谷区・宇田川町にビストロRojiuraをオープン。ミシュランガイド2014、2015でビブグルマンに選ばれる。2015年12月にはレストランパティシエの後藤裕一とともに、代々木八幡にフレンチレストランPATHをオープン。現在、Rojiuraのオーナーシェフ兼PATHのシェフを務める。

水島 七恵
水島 七恵
編集者。新潟生まれ。人の営みから生まれる文化全般を思考領域としながら、雑誌やウェブメディアを中心に、企画とディレクション、執筆を行う。最近の仕事に「TOKYO PAPER for Culture」(vol.01〜vol.16)の編集ディレクションと執筆、雑誌「リンネル」(毎月20日発売)でのシネマレビュー執筆などがある。自分の原点は、音楽。最近目覚めたことは、筋トレ。私にとって編集とは世界の見かたを増やす手段だと思っています。

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